第27話 それぞれ

 葉月の家に行った夜、俺はひたすら小説を書く。


「家族愛……それにラブコメ要素を取り入れて……」


 元々、家族愛については書いてる。


 俺自身が、そういうものに飢えているからだ。


「そこにラブコメ要素か……なにをされたか」


 葉月にされてドキドキしたこと。


 手を繋いだ時の、ふわふわした感じ。


 腕に当たるフニャンという、おっぱいの素晴らしい感触。


 一緒に帰ったり、お弁当を食べたり……。


「それらを文字にして、主人公のヒロインの行動にして……」


 よし、どんどん文字が浮かんでくる。


 キャラが生き生きしてくるのがわかる。


 これが、きちんと舞台を作ればキャラが動くってやつか。


「いつもは、もっと書くのに時間がかかるのに……」


 やっぱり、ある程度の経験と……刺激やリフレッシュが必要ってことか。


 知ってること、経験したことなら描きやすいのは事実だし。


「……よし、大分書けた」


 これも、葉月のおかげだ。


 借りを借りたままなのは気持ち悪いし……きっちりと、お礼しないとな。






 ◇



「……色々あったなぁ」


 二人が寝た後、リビングでほおづえをつきながら、ぐてーんとする。


 少し気疲れしたかもしれない。


「もちろん、嫌ってことはないけど……最近、初めてづくしだったし」


 野崎君と出会ってから、私の日常が変わった。


 そもそも、まだ二週間くらいしか経ってないのに。


 小説を書いてるのをたまたま見つけて、それが面白くて……。


 その後、勢いでラブコメイベントとかやるって言い出して……。


 そしたら、意外と楽しくて……野崎君が、結構いい奴だし。


「まさか、おうちに呼んじゃうとは思わなかったけどね」


 友達だと桜以来かな? もちろん、男の子は初めてだし。


「なに、ニヤニヤしてるのよ?」


「あっ、お母さん……してたかな?」


 仕事から帰ってきて、お風呂上がりのお母さんが対面に座る。


 そして、目の前で晩御飯を食べる。


「ええ、してたわよ。それで、何があったの? 拓也と恵梨香が、何やら騒いでいたけど。まあ、興奮するばかりで全然要領を得なかったけど」


「えっと……」


「なんか、お姉ちゃんが彼氏をつれてきたとか……」


「そ、そんなこと言ってないし!」


「あら、残念」


「もう……ただの友達だし」


「そうなの? でも、貴女が家に連れてくるなんて初めてじゃない?」


「まあ、そうなんだけど……」


 ひとまず、今日の出来事を説明する。


「なるほど……そんなことがあったのね。例の、お弁当を作った男の子なのよね?」


「う、うん」


「結衣だけじゃなくて、恵梨香や拓也までお世話になって……一度、ご挨拶に伺ったほうがいいかしら?」


「べ、別にいいし! 恥ずかしいし!」


「うーん、お母さんも会ってみたいし」


「……そっちが本音でしょ?」


「あらら、バレちゃった」


「もう……そ、そのうち連れてくるから」


「あら? ……ふーん」


「な、なに?」


「ううん、なんでもないわ。結衣が、良い人と出会えて良かったなって」


「だ、だから……!」


「うんうん、わかってる。お母さんはわかってるから」


「絶対わかってないし……」


「ふふ……まあ、連れてくるならいいわ。その時は、事前に言ってね」


「うん、わかった。あと……明後日、二人を連れて……野崎君のおうちに行くんだけど」


「明後日おうちに行く……相手は野崎君っていうのね」


「そういえば言ってなかったね」


「それは有り難いけど、平気なの?」


「うん、あっちから連れてきなって。そしたら、お母さんも楽だからって」


「……随分と気がまわる子ね?」


「野崎君も片親みたいなの」


「なるほど……とりあえず、明日お菓子を買ってくるわね」


「うん、それは必要かも」


 きちんとお礼はしないとだし。


 ……良い人かぁ。


 そりゃ、面白い話書くし、話してても楽しいし。


 今日なんか、カッコいいところもあったりするし……。


 このままだと……ラブコメイベント、私の方が楽しくなってきそう。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る