第24話 お家に訪問

 眠った恵梨香を抱っこしつつ、歩いて行くと……。


 葉月が、とある家の前で立ち止まる。


 平屋の家で、玄関が引き戸タイプの家だ。


 いわゆる、昔ながらの家って感じだ。


 ……小説家とか住んでそうだな。


「……ここが私の家」


「んじゃ、お邪魔させてもらおうかな」


「……それだけ?」


「うん?」


「い、いや! なんでもないし?」


「よくわからんが……流石に、そろそろ腕が痛い」


 見栄を張ったものの、相手は眠った幼稚園児。


 抱っこしながら歩くのには限界がある。


「あっ、そうだよね。じゃあ……どうぞ」


 葉月についていき、家に上がると……。


「結衣ねえ! おかえ……誰だ!?」


「こら!誰だじゃないでしょ! まずは挨拶しなさい」


「こんにちは! 俺の名前は拓也!」


 その姿は生意気そのもので、将来が心配になるが……。


 今はまだ、小学生なので流石に怖くはない。


「こんにちは、野崎天馬っていいます」


「天馬!? カッケー!」


「そうか? 自分では気に入ってないんだが……」


 小さい頃は、ペガサスとか言われてからかわれたりしたし。


 というか、ほとんどいじめに近かった。


 俺が陰キャラになった原因でもある。


 ……ただ、死んだ母親がつけた名前だから嫌いにはなれなかったけど。


「カッコいいぜ!」


「……ありがとな」


 空いている方の手で、頭をワシワシしてやる。


「わわっ!?」


「おっと、すまん」


 つい、可愛いなと思ってしまった。


「………」


「ん? どうした?」


「ゆ、結衣ねえの男か!?」


「はい?」


「な、何言ってんのよ! 違うから!」


 ……何をショックを受けてるんだか。


 ほんと、我ながら嫌になるな。


「じゃあ、なんだよ!」


「お、お友達よ!」


「ん……」


 煩いからか、腕の中で身じろぎをする。


 とりあえず……腕痛いのだが?


 あと、背中がべちゃべちゃしているのだが?





 その後、布団に恵梨香を入れ……。


「じゃあ、お風呂場に行くからついてきて」


「わかった」


「俺も俺も!」


「あんたはダメ。妹を見てなさい」


「ちぇー」


 部屋を出て、廊下を歩いていく。


「ごめんね、うちの弟が」


「いや、いいさ……俺も似たようなものだったよ」


「そうなんだ」


 もう記憶の彼方にあるが、姉貴が友達を連れてくるとあんな感じだった気がする。


 家に誰かが来ることが珍しくて、テンションが上がっていたのは覚えている。




 玄関から見て奥の方にいき、葉月が扉を開けようとし……止まる。


「どうした?」


「ちょ、ちょっと待って! あっち向いてて!」


「わ、わかった」


 ひとまず後ろを向いて、待つことにする。


「も、もう平気だから入って」


「お、おう」


「ここがお風呂場よ」


「わかった。それじゃ、有り難く借りるわ」


「脱いだ服は、そこにおいてね」


 葉月が扉を閉めたので、洋服を脱ごうとすると……。


 ガチャっと扉が開く。


「はい?」


「い、言っておくけど、今朝出かける前にお風呂は洗ってあるから……ひゃぁ!?」


 再びバタンと扉が閉められる。


 ……一体、なんだったんだ?




 ◇



 ……み、見ちゃった。


 いや、ただ腹筋がちらっと見えただけなんだけど。


 ……なんか、意外と筋肉ついてたし。


 そもそも、男の人の裸とか見たことないし。


 というか、野崎君と会ってから初めてことだらけだ。


 余裕を見せてからかってるけど、私の方が緊張してるかも。


 そもそも、自分から男の人にラインを交換してっていうのも初めてだった。


 当たり前だけど、男の子にお弁当を作るのだって初めてだった。


男の子と仲良くなっても、いつも一線を引いてきた。


結局、付き合う暇なんかないし……。







 あの日も、結構大変だった。


 帰ってきたお母さんに、すぐに駆け寄って……。


「お、お母さん!」


「あらあら、どうしたの?」


「余ってるお弁当箱あったっけ!?」


「どういうこと? 学校に忘れたの?」


「そ、そうじゃなくて……その……友達にお弁当を作ってあげたくて」


「………へぇ?」


「な、なんでニヤニヤするの!?」


「いやぁ、うちの娘にも春が来たかなって」


「そんなんじゃないし! その……少しお世話になったから、お礼がしたいなって」


「なるほどねぇ……確か、ここにあったはず……よかった、あったわ」


 お母さんがキッチンから、今は使ってない弁当箱を取り出す。


「えっと……材料とか使ってもいいかな?」


 うちの家計には、そこまでの余裕はない。


「継続的に作る感じなの?」


「……相手が嫌じゃなければ」


 結局、私ばっかりが貰ってばかりだし。


 そんなのフェアじゃないし。


 あと、それを口実に家に……口実ってなによ。


 別に、体調崩して小説書けなくなるのが困るだけだし。


 相合傘なんて誤解をされることもしたことない。


「ふふ……それくらい良いわよ。いつも頑張ってもらってるから」


「ありがとう!」


「じゃあ、気合い入れて作らないと。男の人が好きな感じは……」


「男の子なんて言ってないし!」


 結局、男の子ってことも白状して……。


 でも、久々に一緒にお喋りをしながらお弁当の献立を考えたり楽しかった。






 美味しいって言ってもらえて嬉しかった。


 胸の奥がきゅっとして……なんだがふわふわしたかも?


「ほんと……私の方が初めてをもらいすぎ」


 ましてや、家に連れてくるなんてね。


 男の子には、隙を見せないようにしてきたのに……まずいなぁ。



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