第22話 相合傘
俺の家に……?
いや、それはまずい……こともないか。
結局、俺が我慢すればいいだけだし。
姉貴から、女の子に無理強いするような男にはなるなって言われてきたし、
まあ……そんな機会は訪れないと思ってたけど。
「ダメかな? ほら、私お金ないから……漫画とか小説とか買えなくて。でも、お弁当くらいなら作れるからいいかなって」
「わかった。じゃあ、今度来るといい。ちなみに、明後日の土曜日なら大丈夫だ」
「私も明後日なら平気。でも、なんで明後日なの? 君が暇だとか言ってるわけじゃなくて……」
「わかってるから平気だ。前もって言ってくれたら、明日書く分を先に書いておけるから」
「あっ、なるほど。じゃあ、明後日の休みに……」
「おう……あっ」
その瞬間、チャイムの音が聞こえる。
「や、やばいし!」
「次の授業なんだっけ!?」
「移動教室で化学だし! 」
「茂野先生か! ならまだいける!」
俺たちは急いで片付け、その場を後にする。
結局、教室に道具を取りに行ってから移動教室に向かったので……。
「おいおい、なにしっぽりしてんだ?」
「し、してないし!」
「葉月、しっぽりってなんだ?」
「し、知らないし!」
「おやおや、俺は違う意味で言ったんだが?」
「っ〜!! 早く授業始めてください!」
「クク、わかったよ。このからかいで、遅刻したのはチャラにしてやるから許せ」
結局、わけもわからないまま、授業が始まる。
午後の授業を終えたら、速攻で教室から出て行く。
今日も絡まれたらたまんないし。
「ちょっと!」
「ん? 葉月?」
「い、意外と走るの早いのね」
「そうか? ……まあ、体力測定は低くないけど」
サッカーとかバスケ、野球とかは苦手だ。
でも、こう見えても個人競技とかは得意だったりする。
その中でも、走るのには実は自信があったりする。
「それは意外だったし……」
「まあ、陰キャだからって運動神経が悪いっていうのは偏見だ」
「でも、君だって偏見あったけど? 私に対して」
「……否定はできない。それについては謝る、すまなかった」
「ほ、本気にされると困るし!」
「そうか……」
やっぱり、こういうノリみたいのは難しい。
でも、ラブコメイベントとかのためには学ばないと。
「ん? そういや、なんで呼び止めたんだ?」
「あっ、忘れてた。ちょっと、外を見てみて」
「なに? ……ああ、雨か」
どうやら、ポツポツと雨が降ってきたらしい。
まあ、もう梅雨に入ったので変なことではない。
「なんだ、今日も傘を忘れたのか?」
「違うし……ラブコメイベントする気はある?」
「なに?」
「ほ、ほら、あるじゃん……相合傘とか」
「相合傘……」
女子と相合傘……それは、全高校生男子が憧れるもの。
それを、俺がやってもいいってことか?
「どうする? しちゃう?」
「お、おう!」
「決まりね。じゃあ、帰ろっか」
俺の大きい方の傘をさして……二人で校舎を出る。
「結構、降ってきたな」
「う、うん」
なんだ? ……恥ずかしがっている?
いやいや、自分から言い出したしそんなわけないな。
これも、そういうイベントか。
じゃあ、俺もそういう感じにしないと。
思い切って、手を引っ張ってみる。
「ほら、濡れるからこっちこいよ」
「ひやぁ!?」
「……ひゃぁ?」
なんか、可愛らしい声出てきたぞ?
「きゅ、急になにするし!」
「す、すまん!」
「べ、別にいいけど……だったら、こうするし」
「っ〜!!」
また腕を組まれてる!
しかも、いつもより強めに!
「ふふ、どうかな? おっぱいの感触わかるかな?」
「ぐぬぬっ……!」
「あぅ……」
「ん? 何か言った?」
「言ってないし! ほら、歩いて!」
「わかったわかった! だから引っ張っるなって!」
雨が降る中、帰り道を歩いていく。
「これ、どこまで行けばいいんだ?」
「私はお迎えがあるから、途中で分かれようか」
「妹さんだっけ?」
「そう。えっと、ゆりかご幼稚園って言うんだけど」
「ゆりかご幼稚園……ああ、あそこか」
「知ってるの?」
「いや、通ってたし。俺、生まれた時からここに住んでるからな」
「あっ、そうなんだ。私は中学の時にこっちにきたから」
「そうなのか。じゃあ、こっちから行った方が近いか」
俺は自分が知る道を指差す。
「えっ? あっちじゃないの?」
すると、葉月は違う道を指差す。
「いや、学校帰りならこっちのが近いはず……一回、案内しようか?」
「いいの?」
「ああ、別にいいよ。じゃあ、いくとするか」
「……ありがとう」
俺は歩き出して、狭い間の道を通っていく。
「あっ、ここを出たら、ここに出るんだ」
「そうそう、裏路地を通ると近いよ。昼間なら、危なくもないから。ただ、夜はダメだ」
「……心配してくれてる?」
「そ、そりゃ……妹や弟が可哀想だし」
「ふふ、優しいところあるんだ」
「別に普通だろ」
「そんなことないし」
「姉貴が何かあったら、弟は心配するんだよ」
「お姉さん大事なんだ?」
「まあ……そりゃな。うちは親がいないから、姉貴が育ててくれたみたいなものだし」
「……えっ?」
「あー……うちは母親が亡くなってて、父親が単身赴任だったんだよ」
「そうなんだ……野崎君も。私はお父さんが亡くなってて、お母さんが一人で育ててくれたの」
「そういや、片親だって言ってたな」
「うん……」
「そっか」
すると、葉月の頭が俺の肩に乗る。
……なんだか、急に距離が近くなった気がした。
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