第21話 お弁当イベント

次の日、俺が学校に向かうと……。


「野崎君、おはよー」


「お、おう」


そう言い……いつものように、腕を組んでくる。


相変わらず、素晴らしい感触だ……これに慣れることなどあるのだろうか?


平静を装っているが、俺の心臓の鼓動は早くなっている。


「そういえば平気だった?」


「何がだ?」


「なんか、昨日桜からラインきて……三浦君が、何か言ってきたって」


「ああ、それか。いや、特に問題はなかったよ」


「うん、桜も言ってたから連絡はしなかったんだけど……私のせいかなって」


「別に葉月のせいじゃないだろ。だから、お前が気に病むことはない」


「そう? ふふ……かっこいいところあるじゃん。これはご褒美をあげないね!」


「はぁ?」


「まあまあ、後でのお楽しみってことで」


「意味がわからん」


「いいから。ほら、いこ!」


「お、おい!?」


よくわからないまま、俺は引っ張られていくのだった。






結局、三浦が絡んでくることもなく……その後、お昼休みになる。


俺がいつものように、パンを買いに行こうとすると……。


「じゃあ、いこ!」


「お、おい!?」


葉月に手をつながれ、俺は教室をででいくのだった。


なんか俺、引っ張られてばかりだな……。


そのまま、校舎裏に連れてかれる。


「おい、俺はまだ購買で買ってないんだが。俺に昼飯を食わせないという、謎のゲームか?」


「なに言ってるのかよくわかんないけど、平気平気……ジャーン!」


その手には、何やら風呂敷に包まれたものがある。


「なんだ? 自分の弁当を見せびらかすのか?」


「違うし! ……もう、そんなんだからラブコメイベントが書けないんじゃない? 私が、なんで君が購買で買うのを阻止して、こうして手作りのお弁当を差し出してるわけ?」


「……まさか、俺にか?」


「うん、正解」


「………」


「な、なに? ……喜ぶかと思ったのに」


「オ」


「お?」


「ォォォォォォ!!」


「みゃっ!?」


「まじか! ありがとうございます!」


幻と言われる美少女の手作り弁当!


それは非現実的なもの!


一生、手にすることがないものだと思ってた!


「……こんなに喜ぶんだ」


「はい?」


「う、ううん。全く、すぐに反応しなさいよ」


「無茶言うなよ。こっちは女子の手作り弁当なんか、一生もらえないと思ってた身だぞ?」


「そこまで卑屈にならなくても……でも、また初めてをもらっちゃうね?」


そう言い、今度は舌をペロッと出して笑う。


……あざといぃぃ! くそぉぉ……可愛いじゃねえか!


「お、おう」


「じゃあ、食べちゃおうよ。あっ、でもどこで食べよう? パンとかなら楽だけど……でも、流石に人目がつくところだと……恥ずかしぃ」


たしかに、校舎裏にはベンチなどない。


俺は基本的にパンを片手に立ち食いか、段差があるところに座ったりしている。


校庭の方にはきちんとしたベンチはあるが、目立つから嫌だろうし。


「よし……こうするか」


着ているブレザーを段差がある床に置く。


「ほら、ここに座れよ。これで、少しはマシになるだろ」


「えっ? でも、汚れちゃうし……それに、寒くない?」


「いや、もう置いちゃってるから。もう必要ないくらいだし、来週から衣替えだから平気だろ」


「……じゃあ、失礼します」


葉月をブレザーの上に座らせ、俺が少し離れた地べたに座ろうとすると……。


「ほら、もっとこっち来なさいよ」


「はっ?」


「君のブレザーなのに、私だけが乗ってるなんて変じゃない」


「いやいや、狭いから」


「……大丈夫よ。いいから、早く」


このまま押し問答をしてると、昼飯の時間がなくなりそうだ。


俺は仕方ないので……隣に座る。


当然ながら、身体は密着している。


……良い匂いがするんだよォォォ!


「ふぅ……」


「ほら、君の分のお弁当」


「お、おう……ありがとな」


「まずは開いてみて。なんか食べれない物があれば言ってね」


いや、受け取ったは良いが……食べられる物なのだろうか?


見た目からは、とても料理をできそうには見えない。


いや、しかし……弟や妹の世話をしていると言っていたから平気か?


受け取った二段式のお弁当を恐る恐る開けてみる。


「おぉ……! うまそうだっ!」


そこには定番のタコさんウインナー、玉子焼き、唐揚げ、ごぼうとニンジンの和え物、トマトとレタスがある。


もう一段には海苔弁があり、梅干しが埋め込まれてる。


まさしく、俺が……ずっと欲しかったお弁当だった。


「な、なんで泣くの!?」


「はい?」


……気がつくと、俺の目からは涙が出ていた。


理由はわかってる。


母さんのいない俺にとっては、憧れのものだったから。


姉さんには負担になると思って言ったことなかったし。


「そんなに嬉しかったの?」


「そ、そういうわけじゃない。いや、嬉しかったのは確かだが……と、とりあえず、食べても良いか?」


「う、うん……」


「では、いただきます……」


憧れのお弁当に、俺は思わずがっついて食べ進める。


「……どう?」


「……うまい」


「ほ、ほんと?」


「ああ、めちゃくちゃうまい」


唐揚げはサクサクのままだし、玉子焼きは甘めで俺好みだ。


バランスもいいし、量もいい。


「ほっ……良かったし」


「とりあえず、食べてもいいか?」


「う、うん」


俺は再び、お弁当を食べ進める。


……うめぇ。


言い方は悪いが、大した素材は使ってないはず。


でも、とにかくうめぇ。


ずっと、パンばっかり食べてたのもあるのかもな。


……これは、高い貸しになる。






その後、綺麗に弁当を食べ終える。


「ご馳走様でした」


「お、お粗末様です」


「すんげーうまかった」


「そ、そう?」


「……そもそも、なんでお弁当なんだ?」


「ん? この間も言ったじゃん。君はパンばかり食べてるから、健康に悪いって」


「言ってたけど……それだけでか?」


「イ、イベントになると思っただけだし!」


「なるほど……確かに、この経験値は大きいな。でも、いいのか? なんか、お金がないとか言ってた気がするけど」


「そりゃ、ないけど……私の弟や妹にパンケーキを奢ってくれるんでしょ?」


「等価交換ってやつか」


「あっ、それ聞いたことある」


「まあ、有名や漫画のセリフだし」


「君の家にもあるの?」


「ああ、全巻ある」


「ふーん……お弁当、毎日食べたい?」


「なに? そりゃ、食べたいが……大変だし、その理由がない」


これで、手作り弁当というラブコメイベントは終わったわけだし。


「まあ、大変だけど……その、お弁当のお礼に——君の家に行ってもいいかな?」

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