第11話 勉強会の提案

 その日の昼休みは、ゆっくり一人で食べることができた。


 葉月いわく、小説の邪魔はしたくないそうだ。


 なので、俺は安心して投稿や見直しをしていたのだが……。







 放課後の教室で、俺はうなだれる。


「……まずい」


 明らかに、テストの結果が芳しくない。


 最近、スランプ気味だったことも原因だろう。


 勉強に集中できなかったし……。


 やばい……親父との約束がある。


『小説を書くのは良い。それでお金を稼ぐことも悪いとは言わない。だが仮に書籍化したとして、俺よりも稼ぐようになろうとも……それが、勉強をしないでいい理由にはならない』


 ……その言葉だけは、特に心に残ってる。


 何故なら、同じことをアキラさんにも言われたからだ。


 そんなに甘い世界ではないし、経験を積むことが……ある意味で、小説家に一番必要なことだからと。





「ねえ、聞いてる?」


「くそ、どうする? 期末テストで取り返さないと……」


「ねえってば!」


「うおっ!?」


 気がつくと、目の前には美少女の顔が……葉月がいた。


「君って集中すると、ほんと人の話聞かないのね。パソコンで小説書いてる時も、全然私に気づかないし」


「お、おい! ここで言うなよ!」


「大丈夫だし。ほら、とっくにみんな帰ってるから」


 周りを見ると……確かに、俺たちしか残っていない。


 ホームルームが終わってから、すでに十五分くらい経過していた。


「ほんとだ……どんだけ悩んでたんだ」


「どうしたの? ずっと頭を抱えて……」


「……テストの点が良くなくてな。そうすると、親父から小説を書くことを禁止される可能性がある」


「それって……やばくない?」


「ああ、やばい」


「ちょっと見せて」


「お、おい、近いって」


 再び、椅子を寄せてくる。


「ふーん……私と反対ね」


「なに?」


「ほら、見てよ」


 その手元を見ると……文系の点数が低く、理系の点数が高い。


 逆に、俺は文系が高く、理系が低い。


「へぇ、理系が得意なのか」


「むっ……今、意外とか思ったでしょ?」


「……そんなことはない」


「うそうそ! 今、間が空いたし!」


 そういい、自分の肩で俺の肩を小突く。


 ……なんだ、この感じは。


 ムズムズする? ……よくわからん。


「そ、それより、これからどうするかだ」


「勉強したらいいんじゃない?」


「ど正論だな……はぁ、執筆時間を削るしかないか」


「それは困るんだけど?」


「いや、そうは言うが……」


「あっ! 私たちで勉強会すればいいんじゃない?」


「どういうことだ?」


「お互いに苦手科目を教えあう感じにすればいいじゃん。そしたら、ラブコメイベント?ってやつにもなるんじゃない?」


「なるほど……勉強イベントか」


 確かに、読んでいるラブコメの定番ではある。


「だが、どこでやるんだ? このまま図書館とか? もしくは、ファミレスとかマクドナルドか?」


「図書館じゃ話せないし。あと、ファミレスとかは……お金がないし」


「じゃあ、どうするか」


「えっと……君の家とかは?」


 そういい、もじもじしている。


 なにこいつ、めちゃくちゃ可愛いんだけど?


 というか、その仕草をしてると……谷間がすごいんだけど?


「……はっ?」


「ダメなの? そういうイベントもありそうだけど……」


「いやいや! あるけど! 今日は家に誰もいないんだよ!」


「そうなの? ……あっ、そういうことかぁ……ふふ」


 ニヤニヤしながら、人差し指で俺の肩を突いてくる。


「じゃあ——エッチなことしちゃう?」


「な、なっ——」


 俺の脳裏に浮かぶ。


 制服姿で、俺のベットに横たわっている葉月が。


「じょ、冗談だから! これもラブコメイベントだし!」


「わ、わかってるし!」


「と、とにかく……君の家が一番楽かなって。徒歩で登校してるから、そんなに距離ないでしょ?


「ま、まあ」


「あと、真面目な話……君みたいなセリフをいう人は安心できるかな」


「悪かったな、ヘタレで」


「ううん、いいことだと思う……って、真面目に何言ってんだろ、私……」


「お、おう」


 照れてる仕草は嘘なのかほんとなのか……。


 とりあえず……いつもの感じと違って可愛いらしい。


「それで、どうするの?」


「いや、うちはダメだ。というか、女の子が簡単にそういうこと言うな。付き合ってるならまだしも」


「……う、うん」


「と、というか!ファミレス代くらいは出すから!」


「えっ? い、いや、悪いし」


 姉貴に死ぬほど言われてる。


 たかる女にはやらなくていいが、遠慮する女性なら奢ってやれと。


「大丈夫、その代わりにラブコメイベントを手伝ってくれるんだろう?」


「それは良いけど……ほんとにいいの?」


「ああ、それくらいなら平気だ。サーロインステーキとか頼むなら別だが」


 俺は小説投稿で、月に三万円くらいは稼いでる。


 自分の趣味に使ったりしてるが、それでもファミレスくらいなら問題ない。


「た、頼まないし! じゃあ……お願いしてもいい?」


「ああ、お安い御用だよ」


「ふふ、なにそのセリフ? 小説の読みすぎ?」


「ほっとけ」


 帰り準備を済ませ、俺たちは教室から出て行く。


 ……少し惜しいことをしたと思ったことだけは言っておこう。







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