第10話 ラブコメイベント?

そのまま、教室に入るが……。


何だ? どうして、誰も何も言わない?


どう考えたって、これはおかしいだろ。


学校一可愛い女子と、学校一地味な男子の組み合わせだぞ?


「お、おい? どうなってる?」


「まあ、気にしない気にしない」


「気になるに決まってるのだが……」


「んじゃ、また後でね〜」


そう言い、自分の席に行く。


何がどうなってる?


気持ち悪さを感じつつも、仕方ないので俺も席に着く。





数分後、担任の茂野先生がやってくる。


白衣を着て、気だるげな雰囲気で人気の理科担当の先生だ。


「おいっす、お前ら」


「ういっす!」


「いや、お前達はおはようございますだろ?」


どっとクラスから笑いが起きる。


俺としては苦手な空気だけど、この人が担任でよかったと思う。


あからさまないじめはなさそうだし、よく相談にも乗ってくれるらしい。


もちろん、俺はしたことないけど。


「さてと、今日はお待ちかねのテスト返却日だったな」


あちこちから『待ってない!』という声が出てくる。


「まあ、そう慌てるな。まあ、渡すのは授業の時でいいとして……席替えでもするか」


その言葉に喜ぶ者、嫌がる者、俺みたいにどうでも良い者で、反応が分かれる。


俺は目立たなくて前の方でなければ何でも良い。


無論、後ろの方の席に越したことはないけど。







なのに、何故こうなった?


俺が一番後ろの窓際なのは良い。


ここなら、本来は目立たない。


だが……隣には、葉月結衣がいた。


「野崎君、よろしくね〜」


「お、おう」


「まさかだね」


「まあ、確かに」


すると、椅子を近づけて……囁いてくる。


その度に背中がゾクゾクするが、何とか耐える。


「これもラブコメ展開ってやつ?」


「……使えるな」


偶然知り合った女子が、席替えをした際に隣になる。


これは題材としてもありだ。


「あとは、何かあったりする?」


「どういうことだ?」


「隣同士ならではのイベントとか」


「なるほど……イベントか」


少し考えてみるか。


ラブコメイベント……教科書を見せ合うとか?


こそこそと手紙のやり取りとか……古いか?


こっそり手を繋ぐ……いやいや、教師から丸見えだ。


「……えい」


「……何してんだ?」


気がつくと、俺の頬を葉月の指が突いていた。


「どう——ドキっとした?」


「……してない」


実際には、俺の心臓は鼓動を早めている。


しかし、それは頬をつつかれたことではない。


……ちらっと微笑んでくる横顔にやられただけだ。


ほおづえをつきながら、こちらをみるのは……反則だろ。







これでどうかな?


見た感じだと、よくわからないけど……。


横顔を見ながら、昨日のことを思い出す。






昨日、まずは放課後に……。


親友である桜に、マクドナルドに連行される。


「結衣、どういうこと? 私ってば、全然聞いてないんだけど?」


「ごめんごめん、桜。ちょっと、気になる出来事があったんだよね」


「気になること?」


「うんと……それは彼の事情に関わることだから言えないんだよね。とにかく、彼のことが気になったわけ」


「好きなの?」


「好き……?」


あれ? なんで身体が熱くなってるの?


「顔赤いわね」


「い、いや! あの時はそう言ったけど、まだ気になるって感じ。ほら、亜里沙の件があるから……」


「……ああ、なるほど。確かに、最近露骨に三浦君が絡んでくるもんね」


「私、それとなく躱してるよね?」


それとなく、好きじゃないって感じは出してるはずなんたけど……難しいね。


かといってあからさまにやるのも……うーん、どうしたらいいのやら。


「うん、そう思う。でも、あっちは気づいてない……ふりしてるかも」


「ちょっと距離を置いた方がいいかなって思って」


「……そうかもね。そういうことなら納得したわ」


「ごめんね、言わなくて」


「ううん。男に厳しい結衣が、彼の何を気に入ったかは……正直言って気になるけど」


「まあまあ、そこはね」


「わかってるわよ。私だって、他人の秘密を暴く気はないし」


「うん、ありがとう」


桜のいいところは、こういうところだ。


私にも、無理には聞いてこない。







ひとまず、これで桜は説得できた。


あとは、とやかく言われることも減るだろうし。


安心した私は、保育園に妹を迎えに行く。


「お姉ちゃん!」


「恵梨香、いい子にしてた?」


「あいっ!」


「うん、偉いわね」


「今日のご飯はなに!?」


「なにが食べたい?」


「おにく!」


「お肉かぁ……じゃあ、コロッケとか」


コロッケならお肉を使いつつ、量もあって安く作れるし。


何より、明日のお弁当にもなる。


「コロッケすき!」


「……いい子ね」


「はれ? どうして頭を撫でるの?」


「恵梨香がいい子だから」


「お姉ちゃんもいい子!」


「ふふ、ありがとう」


「お姉ちゃん……笑った!」


「えっ?」


「お姉ちゃんが笑ってないってお兄ちゃんが……」


「そっかぁ……」


きっと、余裕がなかったんだろうなぁ。


学校のこと、家のこと、自分のことで……。


小説を読んだからか、少し心の余裕が出てきたのかも。


何より、彼のお話は家族愛を描いた作品が多かった。


だから、恋愛要素が薄くても楽しめたし、自分に置き換えることもできた。


私も……何か力になれるなら頑張ろっと。


ラブコメイベント……男の子と付き合ったことないから勉強しないと。







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