第9話 契約?
……よし、書けた。
今日はいつも通りに起きて、規定の文字数を書けた。
「ふぅ……予約投稿も完了っと」
……葉月も読むのか。
そう思うと、今更ドキドキしてくる。
クラスの人が、自分の作品を読むことに。
朝の準備を済ませたら、姉貴を見送る。
「今日は少し遅くなるから。多分、夕飯には間に合わないかも……」
「いいよ、姉貴だって自分の時間があるし」
「生意気言わないの。今日は、ただの会議よ。友達と遊ぶ時は、もっと前もっていうわよ」
「わかった。じゃあ、飯は適当に食うよ」
「お金は置いとくから、しっかりしたの食べなさい」
「わ、わかったよ」
「よろしい」
その後、俺も学校へ向かっていると……。
後ろから、誰かの気配がして振り向く。
「おはよー」
「……はい?」
なんだ、この柔らかいものは……未だかつて経験したことない感触だ。
「おはよー、野崎君」
「へっ?」
良く良く見てみれば……葉月に腕を組まれていた。
な、なんで腕を組まれてる?
というか……おっぱいが当たってる。
……えっ——おっぱいダトォ!?
「聞こえなかった? おはよー」
「な、何をしてるんだ!?」
「んっ……きゅ、急に動かないでよ」
「ご、ごめん!」
腕を動かした際に、何やらふわんとした感触が……これが谷間に挟まれるってやつか!
俺の人生には起こりえないイベントだと思っていた!
「ほ、ほら、いこ」
「い、いや、だから……」
「とりあえず、こっちに来て」
「わ、わかったから!」
そのまま引っ張られて、校庭を進んでいく。
当然ながら、視線が集まってくる。
なにせ、葉月は学校一モテる女子だ。
「嘘!?」
「誰だあの冴えないやつ!」
「うわぁ、釣り合ってない」
ま、まずい……胃が痛くなってきた。
俺は見られることに慣れてないんだよ……。
そのまま、校舎の裏につれていかれる。
同時に、ようやく腕を離してくれた。
「……なんのつもりだ? 新手のいじめか?」
こうすることによって、俺を惚れさせる。
そして、告白させてふると……そんな手には乗らない。
俺はそういう漫画や、ラブコメ小説を見てきたからな!
「なんのこと?」
「……違うのか?」
「私は、君のためにやってるんだけど?」
「俺のため? まるで意味がわからん」
「そうよ。君がラブコメがわからないって言ったから。あのあと、悔しくて君の作品を色々と見たんだけど……君の作品って女の子あんまり出てこないけど……確かに、女の子が変だったわ。そんなこと言わないし、思わないかなって。あぁ、女子のこと知らないんだなって」
「ぐはっ……」
俺の心に深刻なダメージ……!
ちょ、直接感想を言われると、こんなに苦しいのか!?
「どうしたの?」
「い、いや、いい……続けてくれ」
これを読者にいっても通じないことはわかってる。
読者が悪いわけではなく、作家側の問題だ。
作者とはデリケートな生き物なのです。
皆さんも、お願いだから優しくしてあげてね!
「それで……ラブコメがわからないなら、実際にラブコメすればいいかなって」
「ラブコメがわからないなら、実際にラブコメをすればいい……どういうことだ?」
「もう! 鈍いわね! 私が題材になってあげるって言ってるの!」
「……何?」
「つまり、さっきのような感じで腕を組んだり……その、どうだった? ドキドキした?」
そう言い、上目遣いで頬を赤らめる。
はい、今現在ドキドキしてます。
何こいつ、めちゃくちゃ可愛いんですけど?
陰キャの俺を殺す気ですかね?
「お、おう」
「それなら良かったわ。ああいう感じで、ラブコメのイベント?ってやつをしていったらいいんじゃない?」
「なるほど、実体験に基づく経験値か……悪くない」
ファンタジーは世界観が違うので、妄想でどうにかなる。
しかし、ラブコメは現実に近い分、その辺りが難しい。
「でしょ? 経験しなくても書けるって人はいるみたいだけど、君は違うみたいだから」
「へぇ、よく知ってるな?」
「え、えっと……昨日、あれから色々と調べたし……」
「……待て。それで、葉月になんの得がある? 俺なんかといたら、カーストトップから落ちるのでは?ましてや、友達すらいなくなるんじゃないか?」
「えっ? 君の小説が見たいからだよ? だって、そのせいでスランプなんでしょう?」
「そ、そうか」
まじか……こいつ、めっちゃいいやつだったとか?
「あ、あと! 男子に告白されるの迷惑なのよ! 私、今のところ彼氏作る気ないし。あと、別にカーストトップとか知らないし。友達も、別にいなくなったりしないと思う」
「はぁ〜モテる奴の苦労ってやつか」
「別にモテても良いことないし。好きな人に好かれなきゃ意味ないから。あと、少し人付き合いに疲れたのよ……君といれば人は寄ってこないかなって」
少し鼻に付くが……そういうキャラを作るときに良いかもしれない。
「最後のは余計だ。ただ……俺自身、その経験が積めるなら助かる」
「じゃあ、今日から特訓ね。あっ、その代わり……」
「葉月に先に小説を見せれば良いんだろ?」
「そゆこと。じゃあ、教室行こっか」
そう言い、俺に手を差し出す。
「あん?」
「て、手を繋ぐのよ」
「い、今からか?」
「これも練習よ」
「わ、わかった」
その日、俺は初めて女子と手を繋いだ。
何とも言えない柔らかさと、高鳴る鼓動を感じる……。
そうか、これがラブコメってやつか。
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