第3話 バレる

 バレた。


 クラスの女子に小説を書いていることが。


 よりにもよって、それが葉月結衣だなんて。


 わざわざ、学校から離れた場所まで来たのに。


 待て待て、落ち着け。


 まだ、バレたわけじゃないはず。


「よし、落ち着け」


「ふーん……」


「はい?」


 気がつくと……葉月結衣が隣に座り、俺のパソコンの画面を見ていた。


 つまりは……小説を見られているということだ。


「ちょっ!?」


「ちょっと黙ってて。今、いいところだから」


「いや、何言って……」


「あと、ここは静かにする場所よ」


「お前が……」


 冷静になって周りを見てみると……睨まれていた。


 ……はぁ、仕方ない。


 もう完全にバレているので、彼女が読んでいる間に、この先のことを考えることにする。








 ……答えが出ない。


 というか、恐ろしい未来しか見えない。


 学校でバラされて……下手すると、虐められたりするかもしれない。


 それくらいなら、何とか耐えられる。


 だが……作品を馬鹿にされたら耐えられる自信がない。


 この子は、俺が心血を注いで作ったからだ。


「……ねえ」


「どうする? どうすればいい?」


「ねえってば」


「うるさい。俺は今、考えごとをしてるん……うん?」


 振り返ると……葉月結衣が、興奮した表情を浮かべていた。


「ねえ! これの続きは!?」


「……はっ?」


「いいから! どこにあるのよ!?」


「お、おい! 勝手にいじるな!」


 すると……店員さんが近づいてくる。


「お客様、申し訳ありませんが……」


「す、すみません! お前のせいだ!」


「な、何よ! 君が答えないからじゃない!」


「と、とにかく、俺に関わるな!」


「ま、待ちなさいよ!」


 その言葉を無視して、パソコンを抱えて急いで店から出る。





 ……追ってこなかったか。


「くそ、お気に入りの場所だったのに。もう行けないじゃないか」


 ……まて、逃げて良かったのか?


 恥ずかしくて、思わず店から出て行てしまった。


「俺は言い訳を考えていたはず……しまったァァァ! 口封じをし忘れてた!」


 どうする?


 今頃、ラインとかでバラしているに違いない。


 そんでもって、バカにしてるはず。


「……ひとまず、帰ってから相談しよう」


 そうと決めた俺は、家路を急ぐのだった。







 ◇



 ……あーあ、学校つまんないなぁ。


 一応、学校には友達と言える人達はいる。


 でも一部を除いて、誰かの悪口とか誰々と仲良いとか言ってばかり。


 そんなことより、自分はどうなの?って思う。


 まあ、そういう私も偉そうなことは言えないけど。


 ハブにはされたくないから、こうやってつるんでいるし。


 本当の私は、誰にも言ってないし。


 これといって、自分に誇れるものはないし。


 男の子にモテたりするけど、それは両親から見た目の良さをもらっただけだし。


 頑張ってるけど、勉強だって大して出来ないし。


 私には、何もない。


 少し化粧や髪を染めて、自分を表現することくらいしか出来ない。


 だから、何かを生み出せる人を尊敬する。






「ねえねえ、今日の帰りカラオケ行かない?」


「良いね! 行こうぜ!」


「葉月も行くだろ?」


「うーんと、パスかな。みんな、ごめんね。今日はバイトあるし」


「んだよ、それくらいサボれば……」


「それじゃ、仕方ないよねー。じゃあ、私達で行こっか」


 唯一、私の事情を知ってる桜がウインクする。


 私はアイコンタクトだけで礼を言い、教室から出て行く。








 駅に到着したら電車に乗り、地元の駅に降りる。


 ……嘘をつくのも辛いなぁ。


 でも、あんまり遊ぶお金がないのも事実だし。


 あと、女子だけならいいけど男子もいるのは面倒。


 何より、たまには一人になりたいから。


「……今日は久々にのんびりできるし、たまには贅沢しちゃう?」


 そう決めた私は、少しお高い店に入る。


 そこでアイスココアとワッフルを頼み、空いてる席を探す。


 そこには社会人達らしき人達がパソコンを打ったり、ノートを開いた大学生とかがいる。


 すごく静かで良いよね。


 騒げないからか、高校生くらいの人は少ないイメージだし。


「えっと……あれ? 私の同じ学校の制服?」


 奥の端っこの席に、何処かで見覚えのある顔を見つける。


「あれって……野崎君って言ったっけ?」


 多分、話したことは無いと思う。


 もちろん、まだ五月下旬だから変じゃないけど。


「へぇ……パソコンなんか持ってるんだ」


 その姿に、少しイラッとする。


 私は弟や妹たちの世話もあって、ろくにバイトも出来ない。


 もちろん、ゲームやパソコンなんかもなくて……スマホゲームすらあんまり出来ない。


「……少し驚かしちゃおうかな?」


 そう決めた私は、ゆっくりと彼に近づき……隣の席に座る。


 あれ? 全然気づいてない? というか……意外と悪くない顔してるじゃん。


 普段の教室では、冴えない感じだけど……今の横顔は悪くない。


 ずっと真剣に何を見てるんだろう? キーボードを押してるからゲーム?


 気になった私は、背もたれに寄りかかり、こっそりとその画面を覗き込む。


 そこには何やら文字の羅列がある。


 ……文章を書いてる? もしかして、小説ってやつ?


 気になった私は、彼に声をかけることにした。


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