赤い箸

イタチ

赤い

赤い瑞


夜という物は、夜というなりに、暗く赤い

わたしの目は、爛々と、歪み

どうしようもない光景を、そのまま

現実に映し出していた

お経のように、お経のように無感情に吐き出される

欲望は、現実化し

わたしの周りを、固めていく

沈みゆく巨大な目は、わたしに赤い涙を見せながら

雲に消える

ただどこまでも不穏なクーラーが

生ぬるい風を

生臭い部屋に充満させ続けている

わたしの首は、もうそこにはない

銀でぐるぐる巻きにされた

唯一の入り口のみが

蛆の出入り口であり

それは、首から進入し

体中を、白く染め上げている

ああ、雲よ

アアクヨ

わたしは、テレビのつかない部屋で

むさぼられている

それは、お金のかからない一つの清掃


まず持ってこれは本意ではない

まず持っていい加減である

まず持って無意味である


わたしが、再婚したとき

わたしには、二人の子供ができていた

一人は、前の旦那の間にできた子供であり

年齢は、今年七歳である

二つに分けたポニーテールが、さわり心地の良い

髪を揺らしている

夫と結婚したのは、わたしが、二十歳の頃だ

会社の同僚であり

いつの間にか、つい気合い

そして気が付けが、子供ができていた

何か不満があったわけではないが

しかし、今考えると

本当に好きだったのかと疑問に思う

それは、何かしらの不満が、存在し

それが徐々に積み重なったとでも言うのだろうか

しかし、それでも、確かに、一緒にいたし

そして、それを必要としていた気がする

ただ、それは、本当かと考えると

まるで、糸でぐるぐると巻かれた

毛糸の玉のように

難解に、視界が、悪くなる

わたしは、彼を・・

いや、やめておこう

結婚から三年ほどで

彼は家に帰らなくなり

そして、ふとしたとき

机の上に

帰宅すると

離婚届が、存在していた

元から考えれば、

あまり噂に疎いわたしでも

彼が、別の部署のこと

つきあっているというようなことを聞くまでになっていた

わたしは、それなりの慰謝料を、貰い

会社を辞め

都内の別のアパートへと引っ越した

そのときには、子供がおなかの中におり

わたしは、どうしようかと思案はしていた

子供が産まれてからも

毎月 お金は振り込まれており

わたしは、娘が、歩き出せるまでは

彼女と一緒にいることができた

それもお金が滞ることになり

わたしは、心配になり

働き始めることにした

彼が、自殺したと知ったのは、その三年後ほど後である

わたしは、近所の事務の仕事を続け

夕方に幼稚園に向かいに行くという日々を過ごした

男親が居なくても

それでも、何とか過ごせたし

さして寂しさもなければ、おかしなことに

不安もなかった

ただ、娘の面倒は、おもしろく

それは一種

犬を、育てるような物に、似てしまっていたのかもしれない

ただ、ペットと言うよりは、

それはしっかりしゃべるし

愛玩動物と言うよりは

やはり、もう一人の何かが、存在しているという認識に近いのかもしれない

そんな存在に、わたしは、なぜかいやされていた

それは、わたしに残る母性本能という物なのだろうか

どちらにしても、子供という物は、わたしには、なぜか幸いにして、重要なものと認識したらしい

どうして、男が、不要に感じたのに

子供は、不要だと感じなかったのか

其れは、やはり疑問点だと言うしかない

わたしの毎日は同じであり

時折、熱や

ぐずったときに

会社に、有給を申請するだけで

わたしは特に、不満に思うことはなかった

多少病弱なところはあったが

しかし、それでも、比較的、わがままを、言うことなく

それも、わたしが、一人親であり

其れを気遣ってか

それとも、捨てられないように配慮したのか

わたしには、興味はない

しかし、其れは、協力関係といえる

彼女は、其れを、生物的に押さえ

生活しているのかもしれない

わたしに関しては、人生に意味を特別認識したときもないし

また、何かを、したいとも思ったこともない

ただ、言われるがままに

流されるように、やれと言われたことを、そつなく

いや、おうだいてんで、過ごしてきただけだ

友達はいない

しかし、かといって、嫌われているわけでも

好かれているわけでもない

ただそこにいる存在

そして誰にもじゃまにならず

ただ人形のように

そこにおかれ

たぶん不要になったら

何も言わず捨てられるのだろう

キーボードからて置いて

帰り支度を始める

別段、帰宅を遅くなることを強いられるような職場でもない

わたしは今日は、近くのスーパーにより

食材をかって、帰る日だ

娘に何かを一つ買っておこう

どちらにしても、彼女は何かを選ぶはずだ

この前は、チョコが中に入った

サックとする菓子を買っていた

今日は、ジュースでも選ぶのだろうか

わたしは、電源を落とし

席を立つと

鞄を持った

そのときだった

「橘さんちょっと良い」

其れは、わたしより二つ年上の

先輩であった

いや、実際は、わたしは、アルバイトというわけではないが

しかし、社員というわけでもない

ただ、言われたことを繰り返すのみなのである

わたしよりも10センチ程背は高く

年齢にしては、比較的わかずくりと言うべきか

別に、怒号がしょっちゅう飛ぶような場所ではないし

第一

わたしの仕事でそのようなことなど、あまりない

それでも、彼が怒られたことを、聞かない程度には

融通が利くのだろう

清潔感もない方ではなかった

普通である

体型も太っておらず

ただ、やせてもいない

案外鍛えているのかもしれないが分からない

「何でしょうか」

わたしは、立ち上がったまま彼にそう言う

「実は何だけど、これから、暇ですか」

其れは、わたしという人間を、知らないからいっているのだろうか

わたしには、娘がおり

毎日  同じ時間に、迎えにいかなけれないけない

其れを中断しろと

「娘さんが、居るのは知っているのですが

今日は、無理でも、今度、お食事に、二人で、いかがですか」

わたしは、なんとも、ごまかしたが

その後何回か誘われることもあり

其れはなし崩しに

合うことになった


娘の反応は、悪くなく

一見して、彼への悪い噂はあまり聞かない

そして、どうも、彼自身

わたしに興味があると言うよりは

息子

つまりは、彼の子供の母親として

わたしがちょうど良いのではと考えたようだ

彼の奥さんは、何でも

大学時代に結婚したが

奥さんの方が、出産間もない頃

交通事故で、亡くなり

そのときも、息子にプレゼントを買いに行こうとしていたらしい

わたしは、彼が、どういう意味で其れを言っているのか分からないが

彼が先に結婚し息子が居るのは、何となく知っていたし

それについて、珍しく少し調べたりもしたが

どうやら、其れは本当らしい

現に、今つきあっている人間の類はおらず

どちらかと言えば、家庭の形成を、お願いしたいと言う内容だった

それに対して

わたしは、其れがどの程度の対応なのか

わたしは、結婚相手として必要なのか

それとも、肉体 恋愛

それとも、子供が必要だからなのだろうか

家政婦として妻としてのベビーシッターとしての人間が必要なのか

わたしは、彼との距離感が、考え倦ねていた

しかし、ある時娘が

父親がほしい

わたしはそう言われ

彼と関係を待つことを決めた


妻と知り合ったのは

わたしが、小学生の頃だろうか

すぐに彼女は引っ越してしまい

その後再開することになったのが

大学の時である

たまたま同じサークルで

わたしは、彼女に、もしかして

と、声をかけられた

名前が似ていることは、何となく認識していたが

しかし、彼女に呼ばれるまで

わたしは確証もなく

また、其れがそのままでも良いと考えていた

しかし、其れがわかり

何かの折りに

わたしは、ファミレスで、彼女と

少し勉強することになり

その折りに、何かで、話が、合ったのだ

其れは、小学校の頃の話だったように思う

もしかしたら、嫌いな相手が同じだったとか

そんなつまらない話かもしれない

しかし、その後のめまぐるしさに

わたしは、其れを忘れている

実に素っ頓狂である

彼女が、妊娠していると聞いたとき

わたしは驚いた

色々と避妊はしていたが

其れが百パーセントではないこともまた知ってた

しかし、わたしは、其れが本当に、自分の子供なのか

少し疑問に思ったが

しかし、それも、生まれてから考えてしまえばいい

もし遺伝子が違えば

申し訳ないが離婚する

そんな考えのなか

わたしは彼女を、支えることにした

彼女に対して、そんな噂もなく

彼女は、わたしが、入社が決まったその月に

子供が生まれた

わたしは、その目つきが、何となく

彼女と自分に、にしている気がしたが

やはり、確証無く

彼の毛髪を、採取し

検査してみた

其れは、その日のことだった

採取し、郵便で送ろうとした

そんなとき

携帯がなった

妻が、病院に運ばれて死んだと

院内で、かつぎ込まれて直ぐだったらしい

彼女は、看護婦に、どうしてもおもちゃを、買ってきたいと言って、少し歩いて

道の反対側のおもちゃ屋に向かったとき

農家の軽トラに、はねられたらしい

問題は、道に放置された彼女は、よそ見をしていた

タクシーにもひかれ

其れを見た人にようやく発見されたという

幸いにして、犯人は、監視カメラにより発見されたが

それも、彼女が、荼毘に、された

そんな時間帯だった

わたしは、息子を、親に預け

仕事を、する事に決めたが

帰ってくると

必ず

息子が、泣くようになった

いきたくない

捨てないで

そんなつもりはもうないし

親にいじめを受けているようでもない

しかし、それでも、わたしは、其れが、改善するように

だれか、お見合いをしようと考えていた

そんなとき入社してきたのが

彼女だった

一見して地味だが

何でもシングルマザーらしい

ただ、それ以上のことは分からず

すこし聞いてみると、何でも、男の方が、一方的に分かれたという

仕事は、生真面目で、面白味がないほど

しっかりとこなした

ただ、それ以外には、特に興味はないようで

そつなくこなすが

それ以上行動を起こすような感じもしない

冷たい印象は、不思議と無く

ただ、非人間的 機械的にも思えた

その後、ことあるごとに

情報や観察をしてみたが

何か、彼女に非があって分かれたという風には見えない

娘に、乱暴や無関心を示しているという風でもない

ことを、探偵をやとい調べてもらった

わたしは、彼女が、ここに来て三年目

何かを、見計らったように

彼女に聞いてみた

いつものように退社時間に席を立った

側に行き

今度、暇なとき食事とも誘った

わたしは、彼女が、好きではないが嫌いでもなかった

其れは、無関心ではないが好感が持てていた


彼の息子と会ったのは、娘と彼があって

十回ほどした頃だろうか

彼の息子は、彼の後ろに回り

わたしに顔も視せず

ひっついていた

わたしはどうすることもできず

こう言うとき

恥ずかしがらずとかいって

しゃがんで、会話でもできればいいのだろうか

わたしは、人の子供を前に

どうすればいいのか

ファミレスの中で戸惑っていた

その日娘は居らず幼稚園に、行っている

今頃お遊戯でもしている時間帯だろう

彼の息子は、始終服の袖をつかみ

後ろから出ては来なかった

今日は、保育園を、休んでわたしの前に来ている

わたしは、彼の目線に立ち

しゃべりかけた

「こんにちは 橘 花です 宜しくお願いします

お父さんとおつき合いをさせていただいております

今後 もしかするとお母さんになるかもしれませんが

そのための練習として」

息子の立君は、父親に、前に出なさいと

引っ張られるが

人見知りの猫のように、

その日 三時間ほど

前に出てくることはなかった


すいません

帰宅するときも謝られたが

帰宅するとそんな電話を、もらった

正直、わたしとしては、彼が嫌なのであれば、

無理して、一緒になる必要性も

あまり感じていなかったし

娘が、其れが良いと言っても

彼の息子の立君が、いやなら

其れを、否定してまで、する事ではない

しかし、毎回合う度に

少しずつ

彼は、わたしに、お話を、するようになり

仕舞いには、好きなことを、ずっと語ってくれるまでになっていった

彼から、結婚の申し込みと

娘さんと息子を会わせてもらえないだろうか

そんなことを言われたのもそのときだった


年が近かったこともあり

二人は、徐々に出会ったが

仲良くなっていった

もしかしたら、直ぐだったのかもしれない

わたしは、彼の住んでいた、家に、引っ越しをした

彼がこの家を、建てたのは、今から二、三年前だという

私たち家族は、

子供達が、小学校に、上がる三ヶ月ほど前

その家に、引っ越した

結婚した翌週のことである

家庭は、実を言うと

さして変わらなかった

其れは良くも悪くも

毎日の繰り返しであり

逆を言えば、其れは、思ったよりもスムーズに進んだ

これは、わたしが意見を言わないから

周りも意見を言わないようになったせいなのだろうか

そんなことが、あるのかどうか分からない

しかし

以前は娘と話していた時間が

彼が、増えたことにより

其れが増え

そして、夫に対しての行動も、また、付け加えられた

はじめの二三週間は、

色々と、疲れることもあったが

両方 さして無理をした行動をしないせいか

それに対する軋轢は、あまりなく

これを平和と言うべきか

すりあわせができていないと言うべきかは

分からないが

すこし、わたしの娘が、

其れは気のせいなのかもしれないが

甘えたような仕草をすることで

この環境により

少し変わった気がした

仕事も、相も変わらずで

結婚式も、内々に少人数を呼んで行ったが

さして、明るい人間でもないわたしを、気遣ってか

いや、部署も違うので

其れは、あまり表沙汰になるようなことも無かった

私たちの子供が、小学二年生に上がる頃

娘の柳葉が、いきなり血を吐いて倒れたと

学校からわたしに連絡が入った

わたしは、その旨を、上司に言い

そのまま直行で、病院に、向かった

病院には、先生のほか

仕事場から近かった夫が、ベッドの横にいた

彼女は元気そうであったが

口には、マスクを付け

体は、病院の検査服のような物を来ていた

わたしが来ると

こちらに軽く小さく胸の前で手を持ち上げた

「大丈夫なの」

わたしは、先生や、夫を前に

彼女に寄るとそう聞く

マスクの中で、くぐもって、多少ぼやけて、聞き取り辛いが

うん と頷くと

「大丈夫 咳が出ただけ」と言う

わたしは、直ぐに、先生に、頭を下げ

夫に話を聞く

「何があったの」

夫は、笑って、廊下に向かう

担任の教師が、ベッドの近くに入れ替わるように

近づき話を娘としている

「なに・・・・・」

わたしは、少し廊下を歩いたところで

彼に向き合う

その顔には、笑顔はなく

何か、真剣めいた顔をしていた

きっと仕事の商談でも

いや、難解な局面に、当たっても

大人はそんな顔などなかなかできないだろう

少なくとも、そう思う

「実は、心臓が・・・弱っているらしんだ」

彼の言葉に、わたしは理解が追いついていない

其れはどの程度なのか

回復するのか

風のような物なのか

それとも、交換しなければ

わたしは、自分の心臓が、子供よりも大きいことに

難儀を感じた

出来るのだろうか

「落ち着け、今は、最善を尽くすしかない

ドナーを探すなり、治療方法を、根気強く」

そんなに悪いの

わたしの確認に

彼は、目をそらし

頷いた


娘の病状は

肺が、非常に薄いらしく

其れにより、破けやすいこと

そして、心臓も、同じことがいえるらしく

いつ、ポンプに穴が開いてもおかしくないと言う

わたしは、今までそんなこと感じたことがないと、思う反面

其れは、思い返してみれば、病弱という事が

もっとも考えてみれば、当てはまっていたのかも知れない

担任が、帰った後

病院の先生に呼ばれ

暗い室内に張り出された

レントゲン写真に

黒い物が見える

其れは、血であり

肺と

少し心臓に、其れが、点々と

ペンキでもとばしているように写っていた

「何か、どうにかできないのでしょうか」

そんなどこかで聞いたことのある言葉がわたしの口から漏れた

こんな事を言って・・

医者は、「これは難病であり

病気と言うよりも先天的な遺伝子的欠陥

つまりは、奇形に、分類されます

もし手術しても

再度更生されるとき

やはり膜は薄く

いつ破れてもおかしくは」

わたしは聞く

「どうすればいいんですか

何をすれば」

医者は首を振る

「申し訳ありません

これに対する処置は

もしかすると移植により

変わるかも知れませんが

言いにくいことですが

あと三年は、少なくとも移植が、回ってくることは

順番的に低いかと思います

移植を、希望されますか」

わたしは、髭を生やした、顔を、なぜかにらみつけるように、見て

「はい」と頷いた

しかし、医者曰く

かなり危険なことには変わりないという

薬も存在しない

ただ、何もないように、生きるだけ

わたしは、こんな時になって

なぜ、と思っていた

「先生 わたしの心臓は」

首を振り

大きさ

そして何より

其れは、移植者を、死亡させてしまうこと

其れは、刑法に引っかかりお受けできないと言う

私は娘に寄り添い

その日、朝まで、病室にいた

次の日 辞表を出すと言うことを言うが

旦那は、それに対して、何も言わず

うんと頷いた

娘が安定するまで入院が決まり

私は、色々な用意をすると

家と病室の往復を始めた

朝は、朝食を作り

昨日の片づけを繰り返し

夕食 洗濯 掃除を終えると

娘の病院へと向かう

その日から、私は、医学書を集め

あらゆる物を調べ始めた

其れは症例から、手術、日本でだめなら

一から英語を学び始めた

娘は、さして、いつもと変わらなかったが

しかし、何か、私といつも入れて嬉しいのか

「ひま」だと言いながらも

何処か笑顔のような気がした


夫は、週何日か

一日後の弟と一緒に

病室に来た

その際には、色々な花やフルーツを入れて持ってくる様子に嬉しそうに目を細めている娘の姿が印象的であった

その際に立君と柳葉は、楽しそうに意見交換している

今日 体育で何があったのか

その学校の様子の状況を聞くのが楽しいのだろう

しかし、相も変わらず、状況は、変わらず

後一日で、仮退院の日

娘が、吐血した

トイレに行くと中である

問題は、他にもあり

肺の中の血液を、体外に出す必要性があり

私は、急いで、緊急手術室の前に向かう

娘と一緒にいた

苦しいはずだが

笑っている娘の消えていく姿を見たとき

電話が鳴る

「もしもし 橘いや高橋さん

実は、部長が、病院に行くと中で交通事故を起こして

電柱にぶつかって・・その、部長が」

私は、惚然とした、感覚の中

意識の消えゆく意識でそんなことを聞いていた


娘は、チューブで、つながれている

ぴくりとも動かない

返事もしないし

意識があるのかもどうかも分からない

私の頭の中に

何かが、とんとんと溜まっていく

其れが、ぐるぐると回り

しかし、やはり、確実に

ブロックを積んでいくように

なにかを流し込み積んでいく 

葬式は、申し訳ないが

義理のお父さんお母さんに、任せた

その心情は、何ともいかんせんともしがたい

物だっただろうし

そう伝えに言ったとき

息子だけが、何か、胸を張り

任せてと言った

そんな気持ちではないだろうに

お辞儀をし

私は、振り返ることも出来ず

うつむくように、家を後にした

病室には、心音が弱々しく動いている

これは、娘の動かしているものではない

私は、娘を見ながら採血を、受けている

少しでも、近い方がいいだろう

娘は動かない

いや、逆に動かしてはいけない

だから仕方なく

腕などをさするが

声をかけるが

何か、無機質な無表情な感覚が

私を襲い、逃げそうになる

駄目だ、私は、娘の手を握った

何もない

小さな手だ

私よりも

私は、何も考えられない

娘は、しゃべらない

麻酔と手術の疲れで、眠っているらしい

私は、その様子を見ていたが

採血が終わったとき

私は、不意に立ち上がった

携帯を見ると

着信があり

その内容は

無事葬式が終わったから、安心して

がんばってください

私の何処かで、何かが、幕を閉じた

シャットダウンするかのように

私は気がつくと歩いていた

病院を出て

車に乗り込むと

そのまま駐車場を出た

時刻は、七時を、回っていた

ライトをつけると多少明るくなるが

秋は、もう真っ暗だといっても良い

肌寒い空気は、徐々にエンジンにより暖かくなっているのだろうが

気にならない

ただ、手だけが、ハンドルの前にやけにしろく写る

私は、そのまま電話をかけた

周りにパトカーは居ない

スピーカーであれば、手を離しても大丈夫だろう

しばらくの着信の後

電話先で、幼い甲高い声が聞こえた

「ごめんなさい お母さんだけど

今すぐ 妹が会いたいって言ってるの

ばれるとまずいから

誰にも気づかれないように出てくれますか」

スピーカーから

「うん」

と言う声が聞こえる

家の前には、提灯が、かかっていたが

人の姿はない

私は、塀の前にゆっくりとまると

玄関が開き

立君の姿があった

彼は、車を回り込み

私だと確認すると

ドアを開けた

「ごめんなさい、大丈夫」

彼はうなずき

助手席のシートベルトをかけた

車が発進する

バックミラーには提灯の二つの明かりがあるだけで

誰かが追いかけてきたりしない

すべては、終わるのかも知れない

あなた、ごめんなさい

私は、ここまで、何かに執着するとは思わなかった

そこまでの価値があるとは、未だに思えない

でも、だめだ

ごめんなさい ごめんなさい

私は、のどで、何かがなっているのを、何とか押さえる

今の時間帯

帰りの車があり

自動車の車間距離は狭い

其れは反対車線も同じであり

時折コンビニに空いた駐車場が見え

二台ほど車が止まっている

「・・何か 何か ほしい物は」

彼は、首を振る

「妹に会いたい」

なぜか彼は、お兄さんになりたいらしく

分かっているが

かたくなに、兄であると主張した

私は、ゆっくりと進む自動車の中

窓の外をのぞき横を静かに向いている彼をみる

彼は、また前を向いて遠くを見た

病院までは30分ほど

今から手術は無い

そして、鍵も

地獄のように、ゆっくりと

時間が流れる

私は、荷台の用品をみる

信号に引っかかったのか

また前の車が止まる

ヒーターが、暖かくしているが気にならない

私は、脳が、沸騰しそうだ

壊れそうだ

もう

しにたい

そんな考えさえ浮かぶ

でも、まだ

なぜ

いや、まだだ

前の車が進み

ゆっくりとエンジンを踏んだ

これも最後のドライブかも知れない


時刻は、八時

電話が入るが

夫の両親である

いやもう呼んで良いのか分からない

私は、知らないとしか答えられない

私は、誰もいない駐車場

降りた息子の頭を、鉄のバッドを振り下ろした


「いたいよう」

そんな声が聞こえたかも知れない

麻酔が、あまり利いていなかったのだ

もしかしたら、うわごとかも知れない

私は、娘を、手術台に置き

床に少年を寝かせて置いた

一度もやったことはない

これは、牛肉や豚肉を切るような物なのだろうか

映像は何度も見た

何度も何度も何度も何回も

私は、痙攣したようにぴくぴくしている

息子を押さえつけ

そのまま、柔らかい腹にメスをつき入れた

銀色のメスは

手入れが良いのか

何の抵抗もなく肌を幕を二つに裂いた

そのままおへその上程までを切り

その後

出欠をガーゼで止めながら

私は、息がひどくなるのを止めながら

心臓を

そして、血が溢れる中

二つの左右の赤い宝石のような

神のような

何かすがるような

二つの肺を、切った

切断した

直ぐに私は、其れを、クーラーボックスに入れ

娘の元にいく

心臓は、機械に動かされている

今頃、小児病棟の赤ん坊の心音が

私の娘の病室で脈打っている事だろう

私は、素早く同じように

先程と同じ事を繰り返すように

娘の白い 青白い腹を肌を指す

そのまま引いて

同じようにあふれ出す血を、ガーゼにしみこませる

機械に動かされるといっても

血が生きている

私は、動いている臓器を

まず心臓を、切り離す

もう動いていない

其れは、赤黒く先ほどの物とは全く違う

立君ではない

私は急ぎ

そして、覚えたとおり

肺を切除した

今度は逆に

箱から、立君の肺を、取り出しつなぎ合わせる

事前に買っていた物が、手術室にもあった

入念に何度も何度も頭でも

そして、実際に肉でもやった其れは、

豚とは違ったが

確実につながった

動け

私は思う

医療用のテープで周りを巻き

私は、肺を持ち上げた

あとふたつ


「あなたは、何をしたか分かっているんですか」

息子の心臓肺を娘と交換し施術し

危険きわまりない

殺人に近い行為です


赤ん坊が居ないことに気がつき

病院内をくまなく

探した結果

彼女はなぜか

高橋 柳葉と言う少女の病室に

脈をはかるように寝かされていた

直ぐに、柳葉を、探すことになったが

其れが、気づいたとき

予定されていない手術室のランプが赤く点灯しており

内部にはいったとき

全身血塗れの女性

柳葉と立の母親と言っていいのか分からないが

立っていた 手を掲げていた

其れはまるで、神にでも祈るように

直ぐに、とらえられ

すぐさま、手術室に、床と手術台に寝かされていた

二人を、検査した

母親の言うとおり

二人には、術跡が、確認でき

娘よりも

息子の立君の方が、非常に危険な状態であり

手術後 機械が取り付けられ

心臓を、動かし続けていた

彼女の口には、血が垂れており

人工マッサージを行ったものと思われる

彼女は、非常に危険な行動を起こしたとして

免許を持たない物の医療行為および

意志のない人間の臓器を入れ替えると言う殺人未遂により

禁固10年が言い渡された

しかし、彼女は、獄中で

投獄初日自殺している


私は、弟が好きである

どうしようもなく

しかし、私は、もうすぐ死ぬ

母親には内緒にしているが

私は、よくせき込んだり運動したあと

血を、口の中に吐いてしまう事があったが

其れはなぜかわはわかない

しかし、どうも、長くはいきられないと言うことが

私には、分かった

其れはもしかしたら、ただの子供の妄言だったのかも知れない

しかし、今考えてみれば、其れは正しい反応だったといえるのかも知れない

わたしは、彼が好きだ

しかし、わたしは、彼が見られなくなるのを知っている

其れは、わたしの死よりも

よほど悔しく執念深く

そして、残念で残念でならない

どうしても、一緒にいたくても

其れは、かなわないことだ

わたしが、彼と会ったのは幼稚園の

彼からしたら保育園だったのだろう

其れは、交流会としょうし

近所の児童が集まり運動会のような事をするのだ

あまり楽しいものではなかったが

しかし、彼の存在を見たとき

何かを感じた

其れは本当に、好きだったのか

今思えば違う気がする

其れは恋心ではない

何か、執念

いや、同じような気がしたのだ

其れは、物質的に

いや、何だろうか

わたしは分からない

しかし、彼から離れたくなかった

もしかしたらやはり

好きでも何でも・・

 母親の様子が少し違う

いつも一辺倒だが

それでもよくやっている方だとも思う

そんな彼女が、少しおかしい

はじめは調子でも崩したのだろうかとも思ったが

調子と言うよりも

行動心情がおかしいと言うべきか

其れは浮かれていると言うよりも

何処か悩んでいる

もしくは、普段やりなれていないことに対して

困っているように思えた

つまり、繰り返しが通用しない

何かを前にしている

其れが何か、わたしは、仕事だろうと思ったが違った

男だったのだ

今にして思えば、あまり興味がなかったのだろう

実に生真面目な女性だ

それでも、しっかりとわたしを、育てるだけの

器量を持ち合わせていたことに

本人も困惑していた気もする

それも生物的本能という物なのだろうか

父親が紹介されたとき

わたしは、父親という存在を

テレビやドラマ

もしくは、友達の親を見て知っていたが

今まで居なかったのだから

今更ほしいなんて言う意味を見いだせなかった

しかし、何かがおかしい

わたしは、彼の名前

そして、雰囲気

最後に、、息子だと

いつだったか

出された写真を見て

決意した

もう 一緒になるしかないと


僕には、弟がいる

彼女は、心臓は、男なのだから

弟だ

僕は、歩くのも遅いが

それでも先生方の陰で

それなりに普通の生活を普通の人間として生きている

母親が戻ってきたとき

弟は、あまり良い顔をしなかったが

私は、それでも良いと思う

すべては、予定通りだ

其れは、父親でもまた僕の予定でも

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