第3話ただ目に映るのは

 「ァ…」

 自分の左腕が飛んでいくのがわかった。

というか、背中から左上半身がミンチなのだろう。多分。


 静かに自分に起こった事態に言い訳をした。無いのだから。そこに先程まで連れ添ったはずのものがない。着ていた服も身体も。


 何が起こったのか。分からなかった。分からないから、ただ考えただけ。酷すぎる現状に麻痺した心と身体はありのままを通そうとする。


 ぼんやりとした幻燈にも似た何かが浮かんでは消えていく。これが走馬灯か。忘れていた何か、忘れなかった何か、嬉しい事や悲しい事。


 生まれて泣いて、歩いて転んで、飛んだり跳ねたり、そんな人生。誰にでもきっと備わっている安全装置。


 こんなもんだと納得仕掛けた時、身体が冷めていくことに気付いた。身体の熱が、悲鳴を上げた身体の熱が、急速に引いていく。


自分の血で周りが赤い。こんなにも溢れてしまえば、何もかもなくなっていく。返ってこい。


「がぁ…い」

あまりの痛さに喘いだ。馬鹿みたいだ。痛い、熱い、寒い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い思い出す。そのくせ自分はここに居るぞと身体が主張する。


 大人しくしろよ。痛みと涙を垂流しながら残った右腕で自分を抱き抱える様にして倒れ込んだ。バランスが取れていないからか無くなった片側をかばったのか空が見えた。

 仰向けになったからか、見えた空に手をのばす。呆気ない最期だな。空ってこんなに綺麗だったっけ…


 ぬっと現れる黒い塊。

 ああ、多分こいつだ。俺をやったのは。邪魔するなよ。そんな事を思いながら、伸ばした手を鼻面に叩き込んだ。


満身創痍の俺の拳には速さも力もあるはずもないが、あっけなく当たった。黒い塊はキョトンとして、次の瞬間、大口を開けて息の根を止めに来た。


だが、その時目に映ったのはとても綺麗な金髪で黄金の瞳の女だった。

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