第2話その先

 唐突だが、目前に切先を突き付けられた事はあるだろうか?


喧嘩や刀傷沙汰、怨恨、DV、痴話喧嘩の果ての脅迫。色々あるだろう。なんでもいい。気にしない。


普通なら、そんな状態になる前に、手で思わず払ったり、防ごうとしたり、避けたり逃げようとしてグサリだったりとするんではないだろうか。


1.何でこんな事にと対話を試みる。

2.じっくり相手の様子見。

3.逃げる。

4.戦う。


さあ正解は…












何もできない。が正解だ。

なぜなら文字通り切先が眼前なのだ。どんな動きでも殺られる。1mm先は…

目蓋閉じたら切れちゃいますよ!?


だが、自分の身体はそろそろ限界だ。多少の覚えはあれど、既にやめた身。

てか、ずっと目は開けたままにはできない。ピクピクしだす目蓋が訴えかけてくる。


しかし、生殺与奪を相手に奪われている時点で、出来る事は少ない。殆どないと言ってしまってもいいわけだが、目は犠牲にするしかないか。そんな馬鹿みたいに他人事の様な感想が浮かぶ。


さっきから切先がぶれていない。恐ろしい程の静謐でこちらを見据えている。故に呼吸さえ取れない。それでも終わりはやって来る。


 仕掛けたのはこちらから。多分人生で最善最良の歩み。仕掛けられた側は一切の淀みもなく俺のこめかみを薄皮一枚裂いていく。微かな異変に振るわれる横薙ぎを膝を崩した受身で距離をとる。


本来ならあり得ないこの状況。だがこれで一歩前進。言葉が出せる。立ち上がり口を開く。


そして、出たのは自分の声にならない吐息ですらない何かだった。

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