最強アイテムボックス

落ちる!身構えたが覚えのあるタイルの上に着地した。

見覚えありすぎのマンションの玄関...

黒江が用意したであろう服と靴を履いていた僕たちは当たり前のように靴を脱いで入る。

「おじゃまちまーす」

ちょこんとローゼリンデはソファとテーブルの間でソファを背もたれにして座っている。あちこち座ってみたがそこが一番収まりがよかったようだ


玄関をもう一度開けてみるがマンションの廊下には出なかった...当たり前だな。窓の外に見えるのは東京の街並み。窓は開かないが不思議だ。とりあえずご飯を炊く「くぅぅ」と腹の虫が鳴くローゼリンデのために冷凍庫から温めたらすぐに食べられる物を見繕ってチンして並べる。身体が子供なので使い勝手は悪いがそこは慣れたキッチン、何とかなる。

電子レンジでボロネーゼのパスタにフライドポテトを温める...栄養的には疑問が残るがそんな事を言っている場合では無い。缶詰のスープもストックしてあったものを温め、子供用のスプーンなど無いのでティースプーンとケーキ用のフォークと大人用のスプーンとフォークを渡す。

大人用では口に入らずティースプーンでは一口が小さい為に忙しなく口に運んでいる。フォークはどちらも食べにくそうなのでハサミでパスタを切りスプーンでも食べられるようにする。

ごはんが炊けるととりあえず塩にぎりだ、小さめに握り海苔を巻く。吉田夫妻が関西人だったため円華は味付け海苔派だった。自分の分は焼き海苔を巻く。

「あちゅっ、あちゅっ、おいちぃ」ふぅふぅしながら両手で持って食べる。

少し落ち着いた所でカイトはローゼリンデに聞く。

「それで…公爵領に帰りたいかい?」

僕は理解していた。今の自分の魔力があれば国に帰れる。

ローゼリンデは公爵令嬢として自分は王子として、そうして何不自由なく暮らせると...

「なんれぇ?ろーじぇはかいとがいっしょじゃなきゃらめだっていってたれしょぉ」

モグモグしながらローゼがそんな事を言う。

ローゼリンデではなく円華のポンコツぶりに私がいなければダメですねと喜栄が言った言葉がそのままカイトの言葉になっている。

「それなら黒江もいなきゃダメですよ」

そう、服飾に関しては黒江が全て世話していたのだ。

喜栄は女性の服を選ぶセンスがない、というか流行りに興味はないから仕方の無い事だったが。

「くろえはぁ、まだいいのよぉ。」

「こんな状態で服装がどうとか、そんな場合ではないのは確かだけどね」

それにあの黒龍が黒江ならば既に目の前のローゼリンデのピンクのチュニックでやらかしていると思う。草食動物ならば猛禽類の格好の餌だ。

目の前でモグモグしている姿はたまらなく母性いや父性を刺激…「いや、何だろうか…?保護欲か…」

ひとしきり食べ落ち着いたローゼリンデは「ここれ、かいちょとコレつくるぅ」

コレとおむすびを指し示した。

「は?おむすび?」思わずそう返すと、口の横に米粒をつけたまま「ちやう、おこめぇよぉ、たんぼよ」と返された。

田んぼ?お米?


初夏の早苗の青さ、秋の黄金に輝く稲穂の光景は美しいがその作業となると…

「は?稲作の知識なんか無いぞ無理だムリムリ」秒で返す。

「ふっ……」みるみる内にローゼリンデの目から涙があふれる。ヤバい

「いや…そのだなあの作業はそう簡単に出来るものでは…」ダメだこれは

「ふえぇぇん、ちゃんぼつくって、おやちゃいつくりゅのおぉぉぉぉぉ」

困った... 三歳児の扱いなんてどうするんだ...米、稲作、野菜...その時、僕の中の喜栄が思い出した。確か社長引退後は米を作って、畑を耕して晴耕雨読な生活をしたいと言っていた。「喜栄は何作る?」と円華の引退後も付いてきて当たり前とばかりに聞かれたのを...「そら豆と黒豆とトウモロコシ...」「やだ、豆ばっかり」「トウモロコシは豆ではないのでは?」「豆みたいなものでしょ」そんな会話をしたな

なら、その辺の設備やらは形から入る円華の事、用意している可能性があるな...泣きやまないローゼリンデをなだめて何とか寝かしつける。明日アイテムボックスの説明をしてみよう。ローゼリンデ…もとい円華の持ち物に農家セット?がありそうなことを...


一晩空けてローゼリンデのアイテムボックスを覗くとやはり大量の物があるのが分かった。しかし出し入れ出来る出入口は一m程の大きである。成長と共に大きくなるからとなだめ、とりあえず円華が孫のために用意していたであろう子供用の食器、カラトリー、服や靴を出す。

喜栄のシャツではどうやっても大きすぎて肩が出る。

今着ているのは黒江の趣味のヒラヒラが付いたピンクのチュニックと七分丈のチノパンだ。

動きにくくは無いが作業には向かない。円華の5番目の孫(男児)用のズボンと長袖を出し下着は...。円華は背はそこそこあったが痩せていたから確かSだったはず。なんとかなるだろう

「なんでぇ?ちってるのぉ?」とローゼリンデは言うが頼まれて用意したのは喜栄と黒江莉佳子だ。

女児用と円華用は黒江が男児用は店員と相談しながら喜栄が選んだのだ。

「で、種籾や鋤鍬はあるんですか?」

「ありゅう」種籾だけでなく各種の花や野菜の種から苗まで出てくる。

「こりぇはまだでれない」と悲しそうに言うので何がと聞くと耕運機に稲刈り機にと大型の農機が全て揃っているらしい。しかも田畑に古民家付きの物件を買っていたらしい「リフォームもしゅんでゆのよ」その言葉にこめかみがヒクリとする。「あー、そうゆうことなら転生して良かったかも...」

ローゼがキョトンとした顔で「なんれ?」と言うが...喜栄はあの時45歳だった。円華は60歳。黒江も43歳...〖社長、やっぱりバイタリティあり過ぎでしたね〗

いくら若く見えると言われていても少し無理があったと思う。想像しただけで疲れそうだ。異世界転生万歳、チート万歳だ。

この際だ好きに生きればいい。ここで好きにしてみて辛くなったら王子と公爵令嬢としてしれっと戻ればいいのだ…そうだ楽勝じゃないか。

三歳と七歳がなんだ魔法とアイテムボックスと前世の知識がある。

「うん、まずは……あーやって…こうして…でどう?」

「しょうよしょれでいいのよ、あたくちにまかしぇなしゃい!かめのこうよりとしのこうなのよっ」「いや三歳児だから」「ちのうはじゅくじょなのよ」「そこは大人で良いのでは?」「はっ、しょうね。ちのうはおちょななのよ」


「ヒョオオオオオイッ」変な掛け声を出したローゼリンデが地面をひっくり返し田を耕し畑の畝を作る...荒野が原野になりそこをローゼリンデの「鋤鍬、要らなかったんじゃ「うにゃ、あしょこにつかうひといるゅ」と指を指す。

ローゼリンデが指す方向を見ると木の影からこちらを遠巻きに伺う者がいる。よく見ると数人の人らしき影がある。その後ろの方にはかなりの数の人がいる。あのローゼリンデの魔力暴走の中生き残ったのかと眺めていたら...

おずおずと数人が近づいて腰を低くしてその場に膝まづいた。見ると人ではあるが、ゲームでよく見るエルフに似ている者、全体に身体が大きく肌が白かったり褐色だったり耳や尻尾があったりする者達がいるようだ。

エルフと思ったのは衣装が...着ているものが一言で言うとファンタジーなのだ。もう1つ加えるとゲームのキャラの格好なのだ

やはりあの黒龍は黒江に間違いない。転生しても僕のこめかみがピクピクする回数は減らないようだ。




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