カイト
カイトは公爵に抱かれヴェールを被って顔も見えない公女を眺めながら「あぁ、つまらないな。」と長い洗礼の言葉を聞き流していた。
イシュバラ公爵は父王と変わらぬ年齢だがものすごく若く見える。
カイトは黄の国の第四王子だが公の場に顔出し始めたのは最近である。
その魔力量の多さに目をつけた者に現王太子と対立させようとする勢力から隠すために国王夫妻はその存在を身体が脆弱な王子として隠した。第一王子を昨年立太子し王太子妃を迎えた為、やっと身体が弱い設定の第四王子を健康体になったと発表したのだ。本当はイシュバラ公爵にも公爵と同等かそれ以上の力があると認められているのだが...
一人歳が離れて産まれたカイトは兄姉達にそれはそれは可愛がられて育ったので公の場に出ないのは自分が小さいからとしか思わず、忙しい父母に会えずとも寂しさを感じたことも無く育った。兄からは男として、王家の者としての教育を、姉からは女性に対しての立ち居振る舞いから接し方あしらい方に至るまでの英才教育を受けはしたが、基本は伸び伸びと育った。その結果、王太子の兄でさえ次期王太子は自分の子ではなくカイトにと父王に進言するほどに成長著しかった。
そのカイトから見てもイシュバラ公爵の美貌は神がかっていた。父や兄たちが金髪で太陽に例えられるが公爵は月の神か妖精王のようだ。
「ホントに人間か?」と小さく呟くと「素敵よねー、本当に妖精王のような方よね」と姉がうっとりとしている。
まぁ、人並み外れた魔力と美貌に智力と存在自体が奇跡みたいな辺境伯。妖精王の加護も持つ英雄か…そんな事を思いながらカイトはおや?と変な引っ掛かりを覚える。
なぜそんな事を知っているのか、公爵とは今日が初対面のはず…
そんな思考がチラリと横切った時、自分の中に何かが流れ込んでくるのがわかった。それは迷子になっていた自分の一部、魂の欠片
そしてヴェールで見えないはずの公女の瞳が見えた。
「円華」誰にも聞こえないほどのつぶやきだった。
そして公女も「喜栄」と小さく呼びかけたのが聞こえた。
瞬間、身体が動いた…と同時に何処かから膨大な魔力が発せられるのを感じる。
「カイト!」「王子殿下!」まわりが一斉にどよめく。
公爵が剣を抜き構えるがその魔力は公爵ではなく公女に向けて放たれている。
「円華!」カイトはローゼリンデの元へ駆け寄りその身体を抱きしめる
光に包まれた様にも、黒い霧にまとわりつかれたようにも見えたそれにカイトはローゼリンデごと捉えられそしてその場から消えた。
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