ローゼリンデ
あれ?目をパチクリとさせたローゼリンデは考える。
私、ローゼリンデは二歳、正確には来週で三歳になる。私は円華59歳、来週には晴れて還暦のマダムだ…あれ?私の記憶がおかしい。夢と混同してる
これ、テンプレってやつだわーやっぱり酔ったのかしら……私は子供だからお酒に酔うなどとそんな事はないはず、テンプレって何?何だかおかしですわね。
こんな具合にしれっとローゼリンデは覚醒した。正しくは円華がローゼリンデと統合した。
小さな手、見覚えのある父親の姿と聞き覚えのある名前。
ぼゃーっとする意識の中で異世界かな?いや…これは元の身体に戻ってきたのだ、あれ?どっちが……などと冷静ではあったが、パニック状態の幼児の身体と精神に引っ張られて「うぇっ…ふぇっ」と泣いてしまった。おとうさまにトントンしてもらって落ち着いたけれど、どんな羞恥プレイなんだと心の中で悪態をついている。
ローゼリンデとしての記憶も円華の記憶もちゃんとある。
伝説として伝えられているが、この世界では神の血脈を継ぐ家系に稀に膨大な力を持って生まれる者がいる。赤子の身体には持て余す力は魂の一部と共に別世界へ一度飛ばされる。そうして三歳から十歳くらいの間にその魂は別世界での生活を学んで本人の元に帰ってくる。いささかオカルト的になるが生霊が本体に戻るようなものだ。別世界へ飛ぶのは一部だけなので本体は普通にこの世界で育つ。そしてある日突然帰ってくるのである。違う世界での知識やスキルや諸々を携え戻ってきた魂の持ち主はやがて様々な力を持つことになるのだが、人によっては新しい知識を広めたり、この国の魔法ではありえない新たな魔法を生み出したりする。そして帰還者は他の人には知られない空間収納を持ち別世界で生きてきて自分の力で手に入れたものはそこに入っているのだ。
伝説とは言うが経験したものが王家には数人いると記録されている。
その一人がイシュバラ公爵であるのだがその事は現国王とイシュバラ公爵の兄の前国王のみが知っている。
その知識と魔力量ゆえに国の南部に広がる魔の国とも称される魔獣の発生する森から国境線を守る為に王子の身分を捨て自ら辺境伯となった屈強な戦士、それがイシュバラ公爵である。見た目は屈強とは程遠い美貌で青みがかった銀髪に碧眼を持つ。背はスラリと高く引き締まった体躯は貴族の女性からの絶大な賛美を受けている。その功績と美貌によりイシュバラ公爵は国の英雄として国民から愛され認められているのである。
その妻は神聖国、朱の国の姫であった。
朱国とは神ルルカが降臨りたった聖なる地でありルルカ教の総本山である小国であるがその権威は五国と呼ばれる周辺国家よりも大きい。
ルルカ神はその身よりククル神を産みククル神は人の子のアグラダと番い五人の神を生み出した。それぞれの髪が黄、赤、緑、紫、青であった故にそれぞれの国は黄の国、赤の国と呼ばれる。
朱の国はこの世界が混沌とした物質で覆われ魔獣が闊歩している世界に降臨した神ルルカがその血を落とし世界を浄化し天と地に分けた場所、それが朱の国である。
そして朱の国はルルカ神を奉りククルを王として統治された。
そしてルルカ神は神の国と行き来するがククル神は神殿の奥深くで今も世界を守っているとされている。
ローゼリンデはルルカ神と同じとされる黒髪黒目の上、魔力が多い。
ゆえに公爵家の秘蔵っ子として隠されてきた。
暗殺や誘拐に備えてその容姿は信頼のおける者以外には秘密である故に公爵領から出たことは無い。
洗礼式も領地で行う予定であったのだがローゼリンデの母方の朱の国の 現王から洗礼式に参列したいと申し出があり仕方なくこの世界に初めて神が降り立ったルルカ教の総本山である朱の国まで出向いたのである。それはバチカンに参り教皇から洗礼を受けるようなものである。王家そして教会総本山である朱の国からの命令にはイシュバラ公爵の抵抗も聞き入れられるはずもなかった。
そうしてイシュバラ公爵はローゼリンデが神ルルカと同じ黒髪黒目を持つという事を隠して式に臨むこととなった。
本来なら自分の足で教皇の前まで進むのだが、ローセリンデは父に抱かれ祭壇の前に立つ。各国の王族の見守る中で洗礼式は滞りなく粛々と進められてゆく。
「暇だな」とローゼリンデは回りを見渡す、魔法をかけられたヴェールはローゼリンデを隠してはいるが回りは良く見えているのでヴェール越しにキョロキョロしていても分からない。
もう、理解している。自分が創ったゲームの世界は創作したのではなく、繋がっている魂がこちらの世界を教えてくれていたのだ。ストーリーはスタッフが作ったからフラグとかは立たないだろう。
魔法って凄いねと感心しながらも中身還暦のオバサンが回りを観察する。
〖へぇ、あれが国王陛下かぁゲーム通りね。次が王太子夫妻で第二王子に双子の第三王子と第二王女と…あれ?〗ゲームで見たキャラを眺めていた私はもう一人キャラにはなかった少年を見つけた。
双子の王子と王女に挟まれるようにして立っている事から第四王子というところか…
「あんなキャラいなかったからホントのモブ?…でも何か見覚えがあるような。私と同じでどこかでちょいと出てくるモブか?」などと見ているとその少年もこちらをじっと見ている。その瞳は色は少し違うが秘書の垣内喜栄と同じく少し星が散っていた。曽祖父が何処かの国の人でその遺伝であろうと喜栄は言っていたが...思わず「喜栄」と呟いていた。
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