第13話 やっぱロリはロリィタ服だわ

「セレンちゃん、一緒におでかけしましょ!」


 突然のことだ。ハルミがそう言い出した。


「どこに行くの?」

「それはラースベルクに決まってるでしょー」


 正直、セレンも予定とかが全て消え去ってしまったし、暇だったのでハルミの提案にのった。


「じゃ、行くよー」


 セレンも見慣れた神聖陣を、ハルミが床に描く。白い光線が部屋を覆い尽くし……。




   †††




 そこは、セレンにとっては縁のある場所で、また初めて見た光景であった。

 目の前にあるのは、ラースベルクいちを誇る王都、ミジェリアの門だ。

 門の両脇には、何人かの兵士、いわゆる見張りが立っている。大勢の行商人や、行き交う民が、それぞれ兵士に何かを見せて門を通っていた。

 そんな門へとハルミは鼻歌を歌って歩いていた。


「は、ハルミおねえちゃん……!」


 セレンの声はハルミに聞こえなかったみたいで、そのまま進んでいっている。セレンも迷子にならないようにと、その後に付いていった。

 門の前へと来ると、ハルミは一向に止まらず、そのまま通ろうとした。しかし、セレンの思い通り、一人の兵士に止められる。


「おいそこの二人。身分を証明するものは」


 行く手を阻む兵士は、装備の上からでもわかるくらいに筋肉がついていて、身長もハルミより高い。思わずセレンはハルミの後ろに隠れてしまった。

 だがハルミはそんな兵士に一切怖気ず、面倒くさそうな顔をする。


「身分を証明する? 何を言っているの。こんなに美人な私を通さないなんて、どうかしているわよ」


 それだけ言って、兵士を突き飛ばすようにハルミは進んでいく。だが、そんな浅はかな行動は許されないと、兵士は腰につけている剣を抜き彼女の前に伸ばした。


「最近は少し物騒な状況でなあ、俺もこんなことはしたくないんだが仕事だからやっている。大人しく身分を証明するものを見せろ。でなければ通すことはできん」


 兵士は威圧を出しながらも、優しい口調で伝える。


「ああ? はあ……。見てわからない!? 私よ、わたし!」


 こいつは何を言っている……といったふうに兵士は困惑を顔に浮かべる。


「見てわからないから聞いているんだろ!? 早くしてくれや……」

「神に名乗らせるとは本当に失礼なやつね……。しょうがない、慈悲深い私のことだ。それくらい許してやろう。このラースベルクを治める女神、ハルミよ!」


 ハルミは自分のことを誇るように胸に手をあて、大袈裟に自己紹介をした。

 兵士は……眉を寄せて、さらに困惑するが、やがて理解する。


「ああ、そうか。病人か。頭がイカれた病人だったんか。気付かなかった俺が悪い。てことでお家に帰ってゆっくり寝てくれ。じゃ」


 そう言って兵士は剣を鞘に直して、ハルミには目もくれず定位置に戻った。

 あからさまな挑発に、ハルミは動きを止めた。口端は徐々に吊り上がっていき、やがて拳が握られる音が聞こえた。

 何か変な気を感じると先程の兵士は、柄を握る。


「……い……おい。そこの貴様、今なんと言った……?」


 低い声が聞こえてくる方向、兵士はハルミを見た。


「おう、まだいたのか。どうした? 悪く言われて怒り出したか? へえ、美人も怒るんだな。なかなかの見ものだよ」


 嘲笑する兵士にハルミは少しずつ近づいていく。

 兵士も剣を抜いて、前に掲げる。


「ねえ、ハルミおねえちゃん……」


 セレンは心配そうに、ハルミの袖を引っ張る。だが、ハルミは自分を悪く言われたことに感情が昂り、セレンの声に気がつかない。


「ねえってば……!」

「ほらほら、後ろの嬢さんが帰ろうって言ってるじゃないか」


 聞く耳を持たないハルミはそのまま手を上げて──


「ハルミおねえちゃん!!」

「──!?」


 セレンの大声に、ハルミは動きを止める。そのままゆっくりと腕を下ろして、兵士を見た。


「我が貴様に命ずる」


 声には力がこもっていた。不思議な、感じたことのないような音だ。


「ここを通らせなさい」

「は。命ずるままに」


 ハルミの命令に、兵士は剣を鞘に収めてまた最初の位置に戻る。今度は何もせず、ただハルミを通らせることに許可した。




「ハルミおねえちゃん、さっきのどうやったのー?」


 王都を歩きながら、セレンはハルミに聞いた。


「神の命令は絶対ってね。まああいつは見た目には反して雑魚だったからすぐに聞いてくれて良かったけど、ある程度の力があれば効きにくいんだよねぇ」


 知らないことばかりだなーとセレンは思う。


(ハルミおねえちゃんは、少し怒りっぽいから、セレンが守ってあげないと……)


 ハルミが知らない裏で、セレンがそう思っていることにハルミはこれからも気付かないことだろう。

 歩いていると、ハルミが「ここだ!」と言って急に止まった。


「まず初めにお着替えしましょ! セレンちゃんの服はちょーっと良いものではないからねえ」


 止まったところは、服屋だった。それも王都屈指の名門店だ。セレンも行ったことはなく、むしろ見たことすらなかったため、こんなとこに来たんだと驚いた。


「でもセレンがこんなとこ入って良いの?」

「良いの良いのー。私がとっておきのお洋服を選んであげるからね!」


 セレン自身、良い服というものは高い服くらいにしか思っていないが、ハルミの服を見る限り、この人に任せておけば大丈夫かーくらいに考えていた。

 店内は、見たことのないような種類の服ばかりあった。キラキラとした装飾品がたくさんついた服や、無駄に露出が多い服など、ありとあらゆるものが置いてあった。


「え……こんなの着るの……」


 ある服をみて呆然とするセレン。


「いや、これは流石にヤバいわ。なんてものおいてるのこの店……」


 ハルミも同意らしい。

 とりあえず子供の服が置いてあるコーナーへと向かう。


「着いた! うーん、いっぱいあるねー」


 色々な服を見て迷うハルミを横に、セレンは一着の服に釘付けになっていた。


「その服、気になる?」


 そんなセレンに気付き、ハルミが声をかけた。


「うん……」


 セレンが見ていた服は、たくさんのフリルが付いており、リボンなどの装飾品もかなり派手めだった。

 ハルミもその服を手に取って……。


(おっふ……。これ、ロリィタ服じゃん!? まじか。やっぱりロリはロリィタに目覚めるのか?)


 そう、セレンが見ていたのは、明らかにロリを代表するロリィタ服……派手な装飾品に過度な模様……。こんな服本当に欲しがる子がいたんだと、ハルミも驚いた。


(うっ、これもまたいいけど……! 流石に目立っちゃうから、お預けということで……)


 流石のハルミでも、これはやばいと思ったのか、服を戻した。


「セレンちゃん。ちょっと、この服はあまり運動に適してないみたいだし、他のにしよっか……。うん、そうしよっか! ごめんね!」


 そう言ってセレンの背中を押して、あまり装飾品の無いコーナーに連れていった。名残惜しそうな目を向けるセレンに、ハルミの心はかなり痛むのだった。

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