第8話 破壊神vs守護神

 石のように固い皮膚に覆われる、その男に値する神の名は、守護神プロスト。名の通り守護をつかさどる神だ。


 プロストは、力強い声でハルミに言う。


「後ろにいる子は誰だ。見たところ、神聖力がないようだが」


 訝しむようにセレンの事を見るが、認識阻害のおかげかまだはっきりとはバレていないらしい。


「して、お前は何の神だ? あまりここでは見ない顔だな」

「…………」


 プロストはハルミに問いかけるが、ハルミは目を合わさず口を開けない。


「何故言わない。自分が何の神かくらい隠す必要もないだろうし」


 更に怪しむような目でハルミを見るプロスト。だが、一向に喋りそうにないハルミを前に、ピクリとプロストの眉が動いた。


「ほう。言わない気でいるのか。それなら結末はわかっているだろう? 俺が力尽くでその子に聞くぞ。さあ、取り返しが付かなくなる前に言うんだ!」


 そこで、ハルミの口が少し、ほんの少し開いたような気がしたが、直ぐに閉じてしまった。

 手が、震えてしまう。何の震えなのか。武者震いなのか、それとも……。


(あ……あ、あああやばいやばいこんなところでコミュ障発動してる場合じゃない!! なんで! いつもこう大事な場面で発動しちゃうのよ! どうしようどうしよう……このままじゃバレてしまう……)


 ガタガタと奥歯を鳴らしながら、それでもハルミは口を開けなかった。

 理由は、ただのコミュ障が発動しただけなのだが。

 口を開けないハルミに、プロストは覚悟を決めた。


「こんな荒業はしたくなかったのだがな。しょうがない、この世界を守護するためだ」


 そう告げられた瞬間、目の前からプロストがいなくなった。そして一瞬の間だった。後ろからバシッと音が響く。硬い皮膚と、柔らかい皮膚がぶつかった音だ。


 セレンは何があったのかと、ゆっくりと後ろを振り返った。


 視界に捉えたのは、プロストが伸ばした手が、ハルミの腕に遮られていたのだ。プロストの手、それはセレンを真っ直ぐに狙っている。

 プロストは一瞬驚いたような表情を浮かべて、手を引っ込めた。


「なかなか早いようだな。見る限り、俺みたいに戦闘特化型の神か? でなければ俺の速さにはついていけない。少し侮っていたようだ」


 ハルミも、いまだに歯をガタガタと鳴らしながら、ゆっくりとプロストの方を向く。正直、今すぐ逃げたいところなのだが、セレンを護るためにそんなこと言っていられない。


「やはり神相手には分が悪い。本気を出すしかないようだ」


 本来、神と神に身体能力差はあまりない。だが、それは身体の作りであって、個性ではない。例えば、守護神プロストは守護をつかさどる神であるため、守護するための防御力や身体能力が高い。


 要するに、何をつかさどる神なのかにより、戦闘能力は大幅に変わってくるのだ。

 プロストは、一歩後ろに下がり、手を前に突き出した。


「姿を顕現せよ、神器、エリュギア」


 その手には、言葉に続き、大きな盾が握られた。やはり白を基調とした神器だ。


「この大盾はどんな攻撃でも耐えうる。たとえお前がどれだけ強い攻撃をしてきてもこの盾で防げば無効化するだろう」


 その言葉に、ハルミは顎の震えが止んだ。


「さあ、来ないのなら俺から行くぞ。安心しろ。拘束するだけだ。怪我はさせない」

「……たな……」

「ん?」

「……言ったな……?」


 ハルミは小さな声でそう言う。


「……? 何を言っているのか意味が解らないが、その子を引き渡すのなら今のうちだぞ」


 容赦はしないと、プロストは目に見えない程の速さでセレンの元へ飛んだ。

 セレンは反射的に目を瞑る。

 それと同時だった。ガコンッと大きな鈍い音がしたのだ。


「……え?」


 プロストが間抜けな声を上げた。セレンに向かって跳んだはずなのに、10メートル以上も吹き飛ばされていたからだ。

 プロストはゆっくりとハルミを見上げた。

 すごく綺麗な、白く長い脚が彼の方めがけて向いていたのだ。


「蹴り……だけ、で……」


 そう、プロストが盾を構えセレンのところに跳んだはずなのだが、その盾目掛けハルミの中段蹴りが見事に命中したのだ。裸足の蹴りだけで、これだけの威力があろうとは、想像する余地もない。


「……さない……」


 プロストは、ハルミの異変にじっと目を凝らす。


「……セレンちゃんに手を出すやつは、許さない……!」


 そう言うと、ハルミも手を前に突き出した。


「出でよ──」

「ダメ!!」


 はっと、セレンの叫びにハルミは正気を取り戻す。そして、前に突き出した手を徐々に降ろした。


「それを使っちゃうと、言い訳が聞かないでしょ!」

「そう、だね……。ごめんね、セレンちゃん」

「うん、大丈夫だよ! 助けようとしてくれたのは嬉しいから!」


 セレンの笑顔を見て、ハルミもそっと微笑んだ。


「はは、お話し中失礼するが、さてはお前、力を封じられているな?」


 プロストは先程までの不安が全て消え、威勢をあらわにする。


「…………」


 ギラリとハルミはプロストを睨む。


「何も言えないか。であれば、次は容赦せん」


 そういうと、プロストは盾を上に掲げた。


「《神器変形:剣》」


 すると、みるみる大きな盾であったものが、つるぎの形に変形していったのだ。純白の刀身を持つ、美しい剣だ。


「守護する神は、相手を打ち破らなければならない。そのために攻撃力も備える。どうだ、次で終わりだぞ」


 プロストはその剣の柄を右手で握り、居合の構えをとった。


「……ッ!」


 ハルミは苦悶の表情を浮かべる。反撃をしたくても反撃が出来ない。効くかどうかは置いておいて、破壊神として、反撃ができないのはすごく辛いことなのだ。


「おねえちゃん……」


 セレンも心配する。


「大丈夫だ。刃は潰してある」


 プロストは深く姿勢をとった。地面を思い切り踏みつけ、本気の攻めに出る。

 そして、地面を蹴ろうとしたところだった。



「そこまでじゃ」



 上空から、少ししゃがれたような声がした。

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