第7話 セレンちゃんってもしかして、やばい?

 目を開けると、そこはぞんざいに壊れた家具や乱暴に散らかった酒瓶などがある家だった。


「ようこそ我が家へ!」


 美声が隣で声を上げる。

 灰色みがかったオレンジ色の髪を揺らして、すごく端麗な美女、ハルミだ。


「あーちょっっとだけ散らかってるけど、許してね〜」

「ち、ちょっっとだけ……」


 常識をあまり知らないセレンですら、わかる。これはちょっっとどころではない。すごく散らかっている。

 心の隅で、後でお片付け手伝ってあげようと考えながら、一歩踏み出した。


「なんか、お外がキレイだね」

「でしょ〜」


 セレンは、ハルミの家の窓を見る。外に広がっているのは、神々しいほどの白い光を中心に、色々な色の星が飛び交った世界だった。

 赤、青、黄、紫……と、点のように色のついた小さな星々が、空を泳いでいる。


「ここは天界だからね〜。下界とは全然違うんだよ」


 ハルミは軽い足取りでセレンの横に移動する。


「ま、色々と気になることはあると思うけど、まずはやることやってしまいましょ!」


 そこでセレンははっと気づき、窓際から離れた。


「そうだね! ハルミおねえちゃんのこと、言わないと!」

「でも、今から言うことはちゃんと守ってね。私が付いているから大丈夫だとは思うけど、もし私以外から話しかけられても無視すること。そして私から離れないこと。わかった?」

「わかった!」


 セレンは元気よく返事をし、ハルミに飛びついた。


「よし、じゃあ行こっか!」


 ハルミはセレンの手をしっかりと握り外へと誘導する。セレンも握られた手を握り変えす。

 家を出て少し歩いたとこだ。セレンは疑問を抱く。


「あれ、そういえば周りだれもいなーい」


 そう、ハルミの家の周りには何もなく、自然しか存在しなかった。自然と言っても、壮大な草原と、ところどころにみかんのなる木があるくらいだ。


「人間とは違って、神は少ないからねぇ。天界の広さも未だに定かではないし。私が天界の中心部から遠くに住んでるってのもあるけど……」

「天界の中心部まで飛べないの?」

「セレンちゃんがいるからねぇ。前も言った通り天界は人間の来る場所ではないから、見られちゃ困るのよ。だから、そのまま行く方が安全なんだけど。近くまでは飛べるかな」

「そうなんだ! じゃあ近くまで飛びたい!!」


 セレンは手を強く握って、輝いた眼をハルミに見せる。こんなのは断れるよしもなく……。


「じゃーあ、私の手しっかり握っててね」


 ハルミは、神聖術により浮遊の力を自分とセレンに付与する。


「あれ、なんか身体が軽くなった?」

「まま、見ててよ」


 そう言うとハルミはいきなり宙に浮かび上がった。それにつられてセレンも浮かび上がる。


「わあ! すごい! 地面が遠くなっていく!」

「へへぇすごいでしょー。セレンちゃんの世界には浮遊魔術とかないのかな。多分セレンちゃんが見たことないだけかもね」

「セレンも使えるようになれたらいいぁ~」

「そういえばセレンちゃんって魔術使えないの?」

「んー使い方わかんなぁい」

「魔力さえあれば誰でも使えるんだけどね。ちょっと見てみてもいい?」

「良いよー」


 ラースベルクの人間であれば、魔力さえあれば魔術は誰でも使える。スポーツは練習をしたら上手くなるように、魔術もまた練習しなければ上手くなれないということもあるが。基本は大体使えるはずだ。

 ハルミは、セレンの手を握っている右手に集中し……。


「──え!?」

「ど、どうしたの?」

「い、いや……」


 念のため、とハルミは神聖眼をセレンに向けた。そこでやっと確信する。


「セレンちゃん、君はとんでもない素質があるよ」

「え?」

「私が見てきた人間の中でも、比にならない程の魔力量がセレンちゃんにはあった。セレンちゃんに少し力を流そうとしたら、全然力が流れなくて、もしやと思って神聖眼で見てみたら、やっぱり身体中がすごい魔力で満ち溢れている」

「それって、なにかやばいの?」

「まあやばいのはやばいけど、良い意味でのやばいだから。うん、やばい」

「そうなんだ……。じゃあ私も魔術、使える?」

「とんでもない! 使えるとかそんなんじゃなくて超級の魔術すら使えちゃうかもね」

「何かよくわかんないけど、使えるのなら良かった!」


 嬉しい!とセレンは喜んでいるが、ハルミは疑問が頭の中を過った。

 魔力量というものは一般的に遺伝する。突然変異的なので、親を越える魔力量をもって生まれる子供もいるが、それはごく少数だ。


 だが、セレンの魔力量は明らかにおかしいのだ。人間の域を越えているというか……。神聖眼で見た時、一般的の人間ならば、身体中に何かが漂っているな~って感じにみられる。その何かが魔力なのだが、セレンの場合、その何かが常に身体から溢れ出すくらいに満ち溢れていた。


 突然変異ですらこういうことは例がない。一体、この子の親は誰だったのか。親は今どうしているのか……。




 そうこうしているうちに、天界イメイシスの都市部分に着いた。下界と違いそこまでごちゃごちゃしていないので、創造神がいる場所は直ぐにわかる。創造神は決まって、あの場所にいる。


「さ、着いたよ。ここからは誰にも見られないように行かなくちゃ。一応認識阻害はかけてるけど、神にはあまり意味ないから」


 ハルミはゆっくりと地面に着地し、周りに誰かいないかと気配を探る。


「なにか、ここらへん神秘的だね」

「だって、創造神が初めて作った都市だからね。恐らくもう創造神にはセレンちゃんのことバレていると思うけど、あのおじちゃんなら大丈夫」


 ハルミは、向こうの方にある、ザ・城というくらいの建物に指を指す。その城は、生半可な城とは変わって、セレンがいた王都ミジェリアの城など比にならないくらいの美しさだった。白を基調とした、巨大の城だ。


「あそこに創造神はいる。私についてきて」


 ハルミの言う通りにセレンはちょこちょこと後ろをついてくる。

 ちょっと歩いたところだ。ハルミはやはり無理だったかと足を止めた。

 後ろから声が掛けられる。


「そいつは誰だ。何をしに来た」


 声の主の方向、後ろを振り返り、セレンを隠すように背中側にやった。


「……守護神、プロスト……」

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