第6話 ハルミがいない裏側で……
闇に溶け込む古城。王都ミジェリアとは遠く離れた場所に位置し、漆黒の壁面に包まれた古い城だ。中にはところどころに青白く光る線が流れており、禍々しい城もどこか神秘的に感じる。
しんと静まり返った真夜中、青白い光を頼りに王室間で、男たちは今日の出来事について話し合っていた。
「待ち合わせ場所に行ったら、跡形もなく散々にされた酒場が見つかったと……」
「はい、この目で確認いたしました。ウェンデル様の仰る通りです」
60代くらいだろうか、髭を伸ばして身体は細いものの只物ならぬ雰囲気を醸す男の名は、ウェンデル。ここを仕切っている人物なのであろう。
「更にエリック、他二人まで消息不明に……」
ウェンデルの言葉に、部下の一人が続ける。
「はい、調査は続けておりますが、未だ消息は掴めず……」
「エリックは国内で数ある冒険者の中でも、有数の冒険者なのだろう?」
ウェンデルは眉間にしわを寄せ、部下に尋ねた。
「エリックはA級冒険者です。並大抵の人間ですと到底太刀打ちできないかと。出来るものであれば、S級冒険者か、数の圧倒的暴力です」
もう一人の男が続ける。
「ですが、数の暴力はまずありえません。もし大人数で行動を共にすると何かしら報告がありますし、ここまで上手く身を隠せないと思われます。それと、エリックはあれでも、冒険者
部下たちの報告を聞き、ウェンデルは顔を歪めた。
彼は計画的にものを進めるタイプであった。今回も、完璧なる計画と確信していた。いなくなっても大して気にも留めない孤児から連れ去り、人のいない、いたとしてもそれこそ無視するであろうスラムで引き取る予定だったのだが、失敗した。こんなことは初めてだ。
人情の厚いエリックを遣わし、不安要素の無いように挑んだ。だが、結果は惨めにも終わった。
付けられていた? もし付けられていたのだとしたら誰に?
予想外のことにウェンデルは頭を悩ませる。だが、答えに至らないまま数分が経った。
すると突然、一人の身体の大きい男が声を上げた。
「おっさん、オレに任せな」
「君は……」
ウェンデルですら見上げてしまう程の巨体を持つ男であった。
「ガイオス……」
彼の名はガイオス。ウェンデルの代わりになるリーダー的存在だ。
「エリックはオレが育て上げた人材だ。弟子がやられて黙っていれるやつがどこにいる」
ギシィと音を立てるほどに拳を握りしめ、ガイオスは怒りに燃えていた。黙っていられないと歯を噛み締める。
ウェンデルは彼を見て、少し考え言う。
「そうだな。私も君であれば安心だ。だが、己の力に過信はしすぎるなよ。想定外というものはつきものだ」
「はは、オレを誰だと思っていやがる」
そう言ってガイオスは出ていった。
はぁ、とウェンデルもため息を付き部下に命令する。
「ガイオスについていけ」
「はっ!」と部下たちも息を揃えて出ていった。
†††
王都ミジェリア。その中央の近くに位置する冒険者
一人の男が慌ててギルドマスターのところに駆け寄って言った。
「マスター、報告があります!」
またか、とギルドマスターは男の方に振り向く。
「いつも、もうちょっと落ち着いて来てくれないか……。それで、何があった?」
「申し訳ございません! A級冒険者エリック、C級冒険者ドレインとアンデスが行方不明になりました!」
「エリックが、だと!?」
ギルドマスターは驚きを隠せないと、机に体を乗り出した。
「はい、毎日顔を見せていたあのエリックが急に来なくなり……捜索したところ未だに……」
「そうか……」
冒険者というものは、命を懸けて行う職業であり、正直のところ冒険者が行方不明になるのは珍しいことではない。それに、冒険者が行方不明になるということは、恐らくそういうことだ。
今までに何度も経験をしたことのあるギルドマスターでさへ、悲しいものは悲しい。
「エリックか、あいつは良いやつだったよ……A級冒険者をなくすのは大いにもったいない。それにあいつ達は私と違ってまだ若かったのに」
「マスター、いえ、まだそうと決まったわけでは……」
「……そうだな」
確かに捜索して結果を出せなかったということが全てではない。過去に何度も救助したことはあるが、やはり数が数だ。見つかった事例よりも、間に合わなかった事例のほうが多い。
「マスター、まだ報告はあります」
「まだあるのか」
やれやれと、ギルドマスターは耳を傾けた。
「あの、活動範囲外であるスラムですが」
「ああ、あそこか。あそこは頻繁に事件があるそうだが、何か大きなことでもあったのか?」
「はい。エリックの捜索にあたり、活動範囲を広げたのですが、ひとつ変な場所を見つけまして」
「なにがあったんだ?」
「もともと酒場があった場所なのですが、そこが大きく破壊されてました」
「ほう、人がいた形跡はなかったのか」
「それが……血痕など何一つ見つからず……。ただ焼け焦げた柱など、何かしら火を使ったと見られます。あそこまで大きな被害を出せるのは、A級並の火属性魔法でないと」
「それはなかなか興味深い出来事であるな。ではそこを重点的に捜索を続けなさい。何か新しいことがわかったならすぐに報告するように」
「はい! 承知いたしました」
そう言って従業員の一人は出ていった。
ギルドマスターはそれを見届けてから、高級な椅子に座り、ため息を吐いた。
「エリック……君は何をしたんだ」
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