第10話 ◆歳月~野萵苣の花言葉◆
おばあさんを看取った後も結局、ラプンツェルはユージーンを待ちながら、塔で暮らし続けました。
おばあさんの遺言通り、ユージーンを隣国に訪ねていくことも考えはしたけれど、どうしても決心がつかなかったのです。
ラプンツェルは、愛するひとを……今度はその心を失ってしまうことが怖かったのかもしれません。
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『娘夫婦を目の前で洪水にさらわれ、一人残された孫娘だけは何としても……と大切に慈しみ育ててくれたおばあさんは、行方不明の娘夫婦が、いつか帰ってくるかもしれないと
ラプンツェルもまた、何ものにも代えがたく大切だと思える存在を得て、愛するゆえに失うことを恐れる気持ち、捨てきれない希望を抱き続ける愛の切なさを知ったのでした。
今更ながらにラプンツェルは考えます。
人を愛するということの意味を。
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ユージーンが王位についてから隣国は、だんだんと落ち着いてきたようでした。
しかし、相変わらずユージーンからの連絡はないまま、時は過ぎていきました。
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それは小春日和の穏やかな日のこと。
塔の扉を叩く音がしたのです。
「ラプンツェル、ラプンツェル……僕だ、ユージーンだよ!」
夢にまでみたユージーンの声でした。
ラプンツェルが、まろぶようにして扉を開けると、そこにはユージーンが立っていたのです。
声も出せずに、ただその胸に飛び込んだラプンツェルをユージーンの力強い腕が抱きしめました。
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塔の部屋でユージーンとラプンツェルは向き合って座っています。
ユージーンが口を開きました。
「此処にくる途中で、おばあさんが亡くなったことを知ったよ。一番辛い時に側にいられなくて、すまなかった」
涙に濡れた目でラプンツェルは、かぶりを振ります。
「いいえ、いいえ。でも、おばあさん最期まで、あなたとわたしのことを心配していたの。会わせてあげたかった……」
ユージーンは、あれからの自分に起こったことを話しました。
王太后一味から騙し討ちのように殺されかかって頭に怪我を負い、それが元でしばらく意識が戻らないまま生死の境を
意識は戻り、怪我は治ったけれど、一部の記憶を失ってしまい、それでも家臣たちと共に、圧政を続ける王と王太后を制圧して、新王となったこと。
そして、周りからお妃を娶ることをどれだけ勧められても、どうしても、その気にはなれなかったということ。
それは、誰だか思い出せないけれど、いつも頭に浮かぶ女性の面影があったから。
そんなある時、しばらく目にすることがなかった
このひとこそが、ずっと胸から消えなかった面影の
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長い長い試練の時は今、終わりました。
「ラプンツェル、どうか僕と結婚してください」
「そして、僕の国へと一緒に行って欲しい」
じっと見つめるユージーンの瞳にラプンツェルの姿が映っています。
「はい」
ラプンツェルは答えました。
そうして、晴れやかに花が咲くように微笑んだのでした。
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二人は扉を開けて寄り添いながら森を抜けて行きます。
雲ひとつない青空に小鳥のさえずりが二人を祝福しているようでした。
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