第9話 ◆悲しみの連鎖◆

 隣国の第一王子ユージーンが行方不明になったということは確かなようでした。

 なぜならしばらくして、第二王子が王位につくことになったという噂が、今度は流れてきたからです。


 そして、ユージーンからの手紙もあれから、ぷっつりと途絶えてしまったのです。


 それでもラプンツェルは、ユージーンは必ず生きていると信じていました。


     🌿


 おばあさんも街へと出かけるたびに隣国の噂を耳にしましたが、それはあまり良くないものばかり……。

 王になった第二王子は王太后の傀儡かいらいで民をかえりみず、権力を握った王太后は贅沢ぜいたくざんまいで国は疲弊ひへいする一方だと。

 そして、元第一王子ユージーンの行方もようとして知れないまま、3年の月日が流れました。


     🌿


 ある日のこと。


 街へ行ったラプンツェルは隣国の元第一王子ユージーンが戻ってきて、王太后と現王から、王位を取り戻したという噂を聞いて帰ってきました。


「ユージーンは、やっぱり生きていたんだわ!」


 ラプンツェルとおばあさんはユージーンの無事を喜び、涙を流したのでした。

    

 それでも、すぐには連絡できる状況ではないかもしれない。

 今は、静かに待っていよう。

 ラプンツェルは自分に言い聞かせました。


     🌿


 しかし、それから1年経ってもユージーンからの連絡は、ありませんでした。


『ユージーンは、どうしてしまったのだろう。もしかして、わたしのことをもう、忘れてしまったの?』


 無事だった、生きていてくれた……その喜びに安堵したあと、今度はそんな不安が押し寄せてきました。


『大変な時なのはわかってる。だけど、一言だけの手紙でも送って貰えたら、それだけで、どんなにか安心できるのに……』


 空を見ながら、寂しげに溜息をついているラプンツェル。

 おばあさんも、そんな孫娘の気持ちを思い、心を痛めていました。


     🌿


 そんなある日。


 ラプンツェルは食事の用意をして、野萵苣ノヂシャ畑で作業しているおばあさんを呼びに行きました。


「おばあさん、食事ができたわ。 今日は少し肌寒いから、じゃがいもとソーセージのポトフにしてみたのよ」


 畑で声をかけたラプンツェルが見たのは、倒れているおばあさんでした。


 悲鳴をあげて、ラプンツェルは、おばあさんに駆け寄ります。


「おばあさん!しっかりして!」


 呼びかけると、おばあさんは弱々しく目を開けました。


「ああ……ごめんよ……ちょっと……眩暈めまいがしただけだから……」


 ラプンツェルに支えられながら塔へと戻ったおばあさんは、ベットに横になると、そのまま寝ついてしまいました。


     🌿


 懸命に看病するラプンツェル。

 しかし、おばあさんの具合は、はかばかしくありません。


 食欲もなく、日一日とおばあさんは弱っていきます。


「ラプンツェルや、あたしにもしもの時があったら、この塔を出て、隣国にユージーンを訪ねておいき……」


「嫌よ! そんな悲しいこと言わないで。必ず良くなるから、必ず……」


 ラプンツェルは、おばあさんのすっかり細くなった手を握りしめます。


「あたしの愛しい孫娘」


 おばあさんは、その手を包むようにしながら途切れ途切れに続けました。


「絶対や必ずは、確かに……ないかも……しれないけれど」


「……お前が愛したユージーンを信じておやり……」


「ラプンツェル……そして……時にどれだけ……運命が残酷……だったとしても……どうか……恐れないで……生き……て……」


 それが、最期の言葉でした。


 おばあさんは、ラプンツェルに看取られながら、静かに息をひきとりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る