第8話 ◆不穏な空気と心の繋がり◆

 お城に戻ったユージーンからは、毎日のように手紙が届きました。


 ___✉️

ラプンツェル、おばあさん、お元気ですか。

僕は元気で過ごしています。


ただ、父上は相変わらず体調がすぐれず、寝込むことが多くなってきました。

 

王妃義母やその一派は、ことあるごとに第二王子である義弟を次の跡継ぎにと、父上に迫っています。


王妃義母は元々、大国の王女だったので、後ろ盾のない僕よりも、自分の息子である第二王子の方が、将来的にもこの国の安泰に繋がる、というのです。


以前はそれでも、あからさまに蔑ろにされることはなかったのですが、父上が病みつくようになってからは、それが酷くなりました。


それでも昔からの家臣たちは、

王妃義母の横暴に国の行く末をうれい、僕に望みをかけているのです。


ラプンツェル、僕は本当は王になどなりたくない。


でも、病気の父上や僕を慕ってくれている家臣たち、そしてこの国の未来の為にも、今、ここから逃げ出すことはできない。


君の花のような笑顔を思い出します。

君やおばあさんと塔の部屋で過ごした温かな日々が、今の僕を支えてくれています……

 ___✉️


 ラプンツェルは手紙を読み終わると胸に抱きしめました。


 隣国の内紛の様子は、ラプンツェルが野萵苣ノヂシャを売りに街へと出かけた時にも耳にはいってくるほどでした。


 けれど、今のラプンツェルにできるのは、おばあさんを支えながら此処で、ユージーンが開いてくれたこの扉から踏み出して懸命に生きること。

 そうしながら、ユージーンを信じて待つこと。


 ユージーンの手紙を、おばあさんに読んで聞かせながら、ラプンツェルは自分に言い聞かせます。


『ユージーンに逢いたい。けれど、彼もその思いを我慢して、今、自分にできることを頑張ってる。だから、わたしも……』


 ラプンツェルはユージーンへの手紙に野萵苣(ノヂシャ)を添えて送りました。

 願いを込めて……。


     🌿


 そんな手紙のやりとりが続き、1年ほど過ぎた頃、ユージーンから、こんな手紙が届きました。


 ___✉️

ラプンツェル、なかなか手紙が出せなくてごめんよ。

実は、長く患っていた父上が、今日の早朝に亡くなってしまった……。


覚悟していたとはいえ、僕は……僕は……。

しかし、僕にはゆっくりと悲しむ時間さえ与えられないようだ。

今、取り急ぎ、この手紙を書いている。

信用できる者に、そちらに届けさせるつもりだ。

 

父上は僕を後継者に、と言い遺されたけれど、王妃義母たちは納得がいかない様子だ。

僕は身の危険を感じている。


僕はこの内乱をおさえて、国を安定させたあと、君を迎えに行くつもりだ。


ただ……ラプンツェル、ああ、愛しいラプンツェル、もしも、もしも、僕が……


(乱れた判読できない文字が続く)


……幸せに……僕は、それだけをいつも祈っている……

 ___✉️


 それは不安を掻き立てられる手紙でした。


 ラプンツェルは急いで手紙を出しました。

 けれど使いの者は戻ってきて、隣国は内乱で外部からの人間は入れない、というのです。


 そうして気を揉んでいる時、隣国の第一王子が、戦いのさなか、行方不明になったという噂が流れてきました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る