第139話

「そういえば、こっちの世界でも男を見ないけど……」


 金色の細い髪の毛を洗いながら、ふと気になっていたことを聞いてみる。

 金髪は水に濡れて、毛先なんかはもう透けているほどに輝いている。

 この城で働く人間は少なくない、さっきの食堂でも見渡すだけで200人はいたであろうから、見えていない人も含めるともっと多いだろう。

 だからこそ、朝食作りを任命されて目眩がしていたのだ、この人数の朝食ってもはや炊き出しレベルじゃないか。


「私の作った世界よ、ヘラのイカれた世界とは違う。

 男はいるけれど、可愛くないから手元に置いておきたくないだけ。

 小さい男の子は何人かいるよ? 」


 でた! 雛菜オリジナルの可愛い至上主義だ。

 とにかく可愛ければ収集癖に歯止めが効かず、時には法スレスレの行為も辞さず手に入れる。

 我妹ながらそこまで主義を徹底しているとは、ブレないな。


「出生率は半々ってとこ。

 ただ顔面偏差値は伸ばせるだけ伸ばしている」


 鏡越しの雛菜の瞳が光りニヤリと笑う、確かに城にいる雇われた人たち、天使も揃って美女だらけだった。

 見た目の美醜で判断されることなく、能力至上主義で選ばれる世界だと豪語しているが……。

 雛菜が設定しているという点で、こっちはこっちで癖のある世界だということは、全てを聞かなくても予想できる。


「さあっ、おしまい!」


 シャワーがないので手桶で盛大に泡を落とす。

 濡れた犬のように顔を振るっている雛菜を置いて風呂をあとにしようとするが、


「次はお兄ちゃんの番」


 逃げられなかったみたいだ、体が浮かされて前に進むこともできない、あーあもう諦めた。

 小さな手で髪が泡立てられる、背中に胸が当たっているが、アドリアネに比べると慎ましやかなものだ。

 香りの良いシャンプーだな、たぶん薔薇の匂いだろうが庭にも薔薇が咲いていたし。

 見た目は可愛いというよりも美しい花のイメージだが、誰の趣味だろうか。


「薔薇はね、先代の神の趣味よ。

 見た目は好みじゃないけど、香りは好きなの」


 へぇ、神様って代替わりするものなのか。


「別に居なくなった訳じゃない、ただこの世界に居ないだけ」


 まぁ神様は死なないもんな。


「ヘラのように男を減らして自分好みの世界にするなんて狂ってる。

 単為生殖が可能な人間なんて、もう人間とは呼べない」


 根っからヘラ様とは趣味が合わないみたいで、


「だからこの世界では、兄妹でしか子供ができないようにした」


 この妹も気が狂っているわ、間違いない。

 本当に兄妹でしか子供ができなくなっているの!? それって色々弊害がありそうなものなのでは……?


「お兄ちゃん、ここは地球とは違うんだよ。

 今までの常識は捨てて考えて」


 そう言われると、こちらから言えることは無いけども、そういうものなの!?

 って、おいおい髪から身体へ、会話と共に自然にスライドしてるけど。


「ちっ、バレたか」

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