第140話
夜明け前に目が覚めるのが癖になってしまったな、元の世界にいた頃はまだ働いている時間だっけか、夜職ばかりしていたから日中はずっと寝ていたな。
目が覚めると、見たこともないような大きな部屋にぬいぐるみが所狭しと並べられている。
そして、腕にしがみついて寝息を立てる雛菜。
そうだった、拉致されたまんまだった、夢オチかと思って頬を摘むとちゃんと痛い。
雛菜を起こさないように寝室を後に、昨日教えられていた調理場へと訪れる。
そこには朝も早くから大忙しで働くメイドが既に何人も待っていた、俺が1番寝坊助だったのか。
中央の調理台に山と積まれた食材、その横でプラミシアがぐったりしている、うわぁこの量を1人で仕入れて運搬し事を考えると泣けてくる。
「お疲れ様でした、朝食まで時間があるのでゆっくり寝てください」
労いの言葉も届いているのかが怪しい、プラミシアはそのまま大柄なメイドさんに担がれて消えていった。
どこから用意されたのか、お馴染みの割烹着も準備されていたので着てみる、どうせダミアナからの情報だろう。
襷がけして袖を吊り上げると、自然と気合が入るようになった、職業病みたいなものなのかな。
さて、朝食の仕込みをしていこうか。
200人を超える規模だから、俺が担当するのは雛菜と天使たちの分だけで、調理工程をほかのメイドたちが真似しながら全員で作っていく。
コンニャクの灰汁取り、大根の桂剥き、出汁の取り方、調味料の分量、魚の火入れ加減。
メイドたちは優秀でメモを取りながら分からないことがあればすぐに質問が飛んでくる、けど経験からくる勘の部分が多いからちゃんと教えられているか不安だ。
館の掃除が終わった者、庭木の手入れが終わった者、洗濯が済んだ者など続々と厨房の周りに人が集まってくる。
昨日見た感じ洋食が主流だったようなので、厨房に漂う味噌の匂いなどが気になるらしい、特に獣人と呼ばれるメイドたちは人よりも鼻が効くので城の外からでも嗅ぎつけてくる。
「お兄ちゃん……、おはよう」
眠気まなこを擦りながら雛菜も目覚めたらしい。
1人でに起きて城を歩き回る雛菜を見て、周りのメイドたちは驚きと感動を全身で表している、皆さん苦労しているんだな。
雛菜はぬいぐるみを廊下に引きずって歩いてきたみたいだ、ずいぶんボロボロになっているが、
「それって、ドンドンペリくんか?」
「そう、これだけは地球から持ってきた」
ドンドンペリくん、これはホストクラブで働いていた頃に店からもらってきたぬいぐるみだ。
なんでも高級な酒を入れたお客様へのサービス品だったようだが、ペリカンを模した姿が絶妙に可愛くなくて店の隅に置いてあったのだ。
それを半ば押しつけられる形で持って帰ったところ、何故か雛菜のお気に入りとして収まった。
引きずられている姿は、完全にアパートにいた頃と同じで懐かしい。
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