第117話

 森の中心での焚き火、最初は火について怒りの声を上げていた妖精たちも常識の範囲内であれば咎めたりはしないようだ。

 ノエールの火加減も調子が戻らないから、そこらで集めた薪を使って普通の焚き火だ。

 小川が近くにあるから適当な石を組んで竈を組み上げて鍋を据える。

 なんだかキャンプみたいだな、中学で行った課外活動の自然体験学習みたいな。


 だとしたら作るのは勿論カレーだ、やはり匂いが結構あるのでボタンがリクエストしてきても応えるタイミングは少なかった。

 やっぱり外で作るカレーには、家で食べるカレーとはまた違った魅力がある。


 いつも猪に似たような動物の肉で作っていたが、今日は普通に取り寄せてもらった鶏肉を使用していく、ローズさんいつもありがとうございます。

 鍋に油を広げて根菜と肉を炒めていく。


「これは不思議な野菜ですね、剥いても剥いても終わりがない」


 妖精たちはタマネギが気になるようだ、それ以上剥いたら可食部が無くなってしまうぞ。

 やっぱり妖精は肉とか食べないのかなと、別の鍋を用意しようかと考えたが、普通に食べれるらしい。


「栄養となれば落ち葉も動物の死骸も変わりないですから」


 言い方よ、今から食べるものを死骸扱いしないでくれ。

 複数の乾燥スパイスを使うような本格的な物ではないが、クミン、コリアンダー、ターメリックなどは別で入れているのがこだわり。

 あとは市販のルーを入れて混ぜるだけ。


「この茶色い塊を入れるんですか……、大丈夫ですか……?」


 メリダは怪訝そうな顔で鍋を覗き込む。

 おぉう、やっぱり冒険者たちにはこのルーが良くないものに見えているようだ、初見のカレーは竜の里の人も警戒していたからな。


「綾人さんの料理を信用できない者に食べさせるものはありません!

 そんなに怖いのであれば持ってきた保存食を食べてなさい」


 アドリアネはご立腹だが、そこまで怒ることじゃないぞ。

 他の冒険者は我関せずといった態度でメリダを見放したな、お前ら仲間なら助けてやりなさいよ。


「嘘です嘘! こんなに食欲をそそられる香りを前に我慢なんてできないですー! 」


 お腹を抑えて絶叫してる、小柄ではあるけどいい大人が飯のために叫ぶとは。

 冒険者の持っていた保存食を試しに食べさせてもらったが、うん美味しくないな、何が原料なのか練って固めて乾燥させただけの塊。

 確かにこれを食べて凌ぐのは大人でも泣きたくなるかもしれんな、やはり食は人間を構成する上で1番重要な項目だな。


「これが人間の食べ物、複雑な手順を踏むのね……。

 火を使ったり水を注いだり、面倒……」


 巨大な木製の皿を自ら作ってドライアドが待ち構えているが、その巨体を満足させる量は作れないよ。


「図々しいですね、千切ってあげましょうか? 」


 指をポキポキならしながら柔らかそうなドライアドの2の腕を摘むアドリアネ。

 最初に出会った時よりも、巨大だし豊満いや、ぽっちゃりしているよな。


「冗談、小さくなるから勘弁して……」


 顔を青くして通常の女の子サイズに縮まる、そんな簡単にサイズ変更できるのか、ファンタジー生物は便利だな。


「綾人さんから送られた魔力が多すぎたっすね、それを調節するための先輩経由だったのにパイプの弁がぶっ壊れて……あたたたっ!痛いっす痛いっ!」


 舐めた口をきく後輩にコブラツイストを容赦なく決めていく、パワハラ上等な明るい職場です。

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