第118話

「誰がガバガバ天使ですか、えぇ?」


「そこまでは言ってないっす」


 手足の関節を摩りながらノエールは正座させられている、天使の中では正座が恒例の罰なのか、天使が正座ごときで根を上げるとは考えられないが。

 しかし反省しているポーズは一目で判るから溜飲は下がるのかな。


 カレーを食べ終わると仰向けで寝転がる者が続出した、なぜなら大鍋のカレーは第二弾だからだ。

 俺が食う暇もなくせっせと作っていた結果、森の中では無言でカレーを掻き込むスプーンが器を滑る音が鳴っていた。


 野営でこんなにのんびりしている理由は、森の長の役割がキングトレントからドライアドに移動しているからである。

 この野営地は長のいる場所として魔物や魔獣は避けているとのこと、初めての異世界キャンプとしては安全であることに越したことはない。

 それも見越しての救出だったと豪語する天使の発言は、あまり信用していないけど。


 さっきからアドリアネがせっせと組み立てているのは、あれってファミリー用のテントだよな、スポーツ用品店なんかの奥で展示のため設置されているようなサイズの。

 確かにあれば快適なんだけど、うーん世界観にマッチしていない、と言うよりも見た目ただのキャンプなんだよな。

 けど、少しワクワクしている自分もいるので手伝うんだけどね。


「少ない所要時間で立派な天幕ができましたんですの」


 トーラさんの感嘆とほぼ同時にテントは完成した、地面に金具で固定していた時に分かっていたけど大きいな、これなら全員で寝ても問題なさそうだ。


「私と綾人さんの寝室は完成したので、あとの皆さんはご自由にどうぞ」


 これ2人用のつもりだったのか、もしや今夜付きっきりでいるという発言もあながち本気だったのかも。


「いやいや、せっかく大きいんだから全員で使おうよ。

 森だし夜は冷えるからさ」


「綾人さん! 寝所にオオカミを集団で招くなんて危険過ぎますよ! 

 見てください、今寝たふりをしている奴らの横目を」


 振り向くと急いで顔を逸らす面々、うんアドリアネの意見にも一理あるかもな……。


「それなら任せる、それに似たものを作れば良い」


 ここで名乗り上げたのがドライアド、大地に手を置き地面から葉のない木がたち登り組み上がっていく。

 あっという間にテントに作りの似た建物が現れた、これには流石のアドリアネも驚いた様子。


「あれは真似できませんね、魔術などではなくドライアドという妖精の性質です」


 森の植物においてドライアドという存在はまさしく神に近い生き物、カレーの皿を舐め続けていても生ける伝説らしい。


「がんばったので、おかわり」


 なるほど、その為か。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る