第74話
side アドリアネ
露骨な勧誘ですね、この世界では男は貴重な存在です、このような態度は本来であれば争いの火種にしかならぬと分かっているはずですが。
どうにもこのエルフたちは綾人さんにご執心みたいですね、なんとなく心当たりがあります前にヘラ様が仰っていた教会関係でしょう。
にしても力関係が分からないというのと難儀なものですね、この集まりの中で己が力量を把握できて周囲に強者が犇めいていることを理解しているのは、この陰気臭いローブを身に纏った者のみですか。
「招いてなんですが、あまりそういう態度は招かれる者の礼儀を疑わざるを得ないですね。
世の中男性1人で戦争になることもあるのですから、この村唯一の男性を勧誘するのは止めてもらいたいものです。」
それにしても、竜たちには堪え性がありませんね、抑止してもなお溢れ出す殺気を抑えれていません、血気盛んなのも良いですが時と場所を選びなさい。
「なぁに、礼ははずみますよ、代わりの男が欲しいなら準備しますし…」
火に油を注いでどうするんですか、馬鹿なんでしょうかこのビショップは。
ほら見たことですか、竜たちの目が完全に開かれて鱗まで逆立ってますよ、それでも席を立たないのは誉めますが。
「それにもっと小柄で可愛いのを連れてきましょう。
この男は少々大柄で、慎ましさが足りないでしょう。」
side ツバキ
こやつ先程から何をくだらない御宅を並べておるのじゃ。
そもそも竜の宝を奪うことがどういう意味か分かって発言しておるのかの、たかだか長生きしか取り柄のないエルフ如きが触れていい存在ではないぞ?
「なぁに、礼ははずみますよ、代わりの男が欲しいなら準備しますし…」
完全に舐めておるな、綾人殿の前であるし穏便に済ませようと天使が務めておらなんだら、今頃細切れにして海に捨てているところだ。
モモはまだ堪えておるほうじゃが、ボタンもキキョウも、何よりもアタシがもう我慢ならぬ、綾人殿の代わりなぞ生きてきて一度も見たこともないわ。
「それにもっと小柄で可愛いのを連れてきましょう。
この男は少々大柄で、慎ましさが足りないでしょう。」
これ以上は聞き捨てならない、そう皆が思い顔を向けると、もう既にアドリアネがエルフの小娘の顔を鷲掴みして吊るしておった。
やばい、あの顔は。
モモを叩きつけた時よりもずっとキレてるのが分かる、天使の逆鱗に触れおったの。
元より助ける気なんてないが、もう助からんじゃろ。
とっさに臨戦態勢をとろうとするが、もう手足も指の一本さえも動かせぬことじゃろう、もうこの空間は神聖魔術に支配されておる。
しかし、アタシたちまで動けないようにするのは手を出すなということかの。
初めて拘束された愚妹たちも驚いておるが、もうこうなってしまえば詰みじゃて、アタシたちの力量ではこの術式の一端すら触れれぬ。
あの一瞬で剣の柄を握れたのは誉めても良いじゃろう、反応できたのは剣士ともう1人のエルフだけか。
魔法使いは戦意なぞはなから湧いていないし、シーフも反応が遅れておった。
「もう喋らなくて結構ですよ。
これ以上聞くと歯止めが効かなそうですから、お帰りいただきましょうかね。」
もう歯止めなんて効いておらんじゃろうが、と口に出せばアタシが始末されそうだから言わぬが。
竜のことを気が短い生物と誤解されておるかも知れぬが、天使の方がよっぽどじゃろ。
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