第71話
sideアドリアネ
今日も今日とて綾人さんの風呂を覗こうとしたボタンを浜辺で鍛え直します、心頭滅却すれば煩悩は消え去るはずですから。
ボタンの使用する結界術は、正直なところツバキほどの力はありません、村を覆えるほどの広範囲へ及ぶ術式は高度な技術とされているからです。
それに比べるとボタンの結界は極々小規模に複雑な術式を詰め込んだ、結界術と言うにはあまりにかけ離れている代物。
区切った一部の重力を増加させたり、逆に空間内の重力方向を変え浮き上がらせたりと使用方法によっては応用の効く能力です。
真似をしようとすればツバキにもできるでしょうが、長年こればかりしていた分ボタンほどの速度で使うことは難しいでしょう、これもまた高度な技術なのです。
が、使い方が一辺倒すぎていささか退屈と言わざるを得ないですね、折角の技術を山での狩りにばかり使っていては成長がみられません。
「だぁから、結界の術式を素手で破壊する奴なんて想定してないんだって!」
それは貴方の視線で、次に術式を展開する場所が簡単にバレるのがいけないのです。
素直なのは良いですが戦いで悠長なことは言ってられません、破壊されるのが問題であれば破壊される前提で同時に複数展開しなさい。
ローズが帰る前に心配してましたよ、娘たちの成長が止まっていることに。
こちらも預かる身ですから、生半可なことは許しません、これは体罰ではありませんからね。
浜辺の形が一部変わってしまいましたが、今日の組手はこの辺で勘弁してあげましょう、これ以上やると浜辺が元に戻らなくなってしまいます。
すると、湾曲した浜辺の向こう側に、動く人影が見えますね。
何やら人が倒れていて、その周囲を別の人たちが囲んでいます、追い剥ぎでしょうか?
偶には天使らしいこともしましょうかね、助けて綾人さんに報告すれば褒めてもらえるかもしれませんし…。
side 魔法使いのウェル
魔法使いになる条件として、魔力の気配を察知できるのが大前提です。
これは魔術学校に入学できる最低条件で、逆にこの才能さえあればどんなヘボだって年寄りだって一端の魔法使いになれるのです。
私だって魔力の気配が分かります、なんなら他の魔法使いよりも敏感に察知できます、なので今この場で何も感じない人を羨ましく思うのです。
「さっきから何これ、気持ち悪い。」
もう膝にくるほど私の三半規管は揺れに揺れ、目の前がクラクラと歪んで見えます。
肌、いや全身で衝撃波を感じるほどに大気が魔力で振動しています。
何で周りの人はこれが感じ取れないのだろう、気配に鋭い剣士も、斥候を務めるスカウトもなんで平然としていられるのか。
「おいおい、暑いのにローブなんて着てるから日に当てられて体調を崩すんだろ。」
何もわかってない能天気なビショップは呆れ顔、馬鹿なアンタが今回の依頼を元高司教が出してるからってほいほい受けたのが始まりでしょう!
それにしても本当になんだ、先ほどまで向かっていた方向から噴火の如き衝撃が切間なく飛んでくる。
元高司教の依頼者もそれを察してか踵を返して帰ろうとする、この先には竜の一族が守る秘境があると噂されているし。
砂浜に尻餅をついて動けなくなった、今までとは違う種類の特大な波が私を震わせたからだ。
今までの衝撃は同じ波形だったのに比べ、その波を掻き消すほどの特大さに、私の平衡感覚が限界を迎えたのだ。
そして恐らくその発生源が、あろうことか近づいてくるではないか。
私には分かる、いや私にしか分からない!だから伝えなくては!
「今すぐここから逃げてっ!今すぐに!」
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