神託と、それを狙う者

第70話


「忘れてたけど、謝らないといけない事があるの…。」


 不穏な語りだしだ、個室でうつ伏せになりマッサージを受けているヘラ様が本当に思い出したかのように話はじめた。

 それにしても前回マッサージしたときよりも肩が凝っているな、慎ましい胸のサイズをみるところ日頃のストレスが原因だろうな。

 ヘラ様はやっぱり俺のマッサージへの耐性が高い、他の人と比べても著しく乱れがないのはマッサージし易くて助かる。


「最初に行く予定だった国があるじゃない?覚えてないかもしれないけど。

 私あそこの最高司祭に神託与えちゃってたんだよね〜。」


 んん?それの何処が謝る事に繋がるのだろう。


「一応さ、世界を救う壮大な神命を綾人さんには託したんだよね、自覚はないかもしれないけど難なくこなしてくれてるけど。

 世界の救世主って触れ込みで神託しちゃった、テヘペロ♡」


 救世主って、そりゃまた詐欺レベルに適当言いましたね。

 無難にこなしてるって言われても、実際俺がしてる事ってマッサージと料理だけなんですけど。

 それでも、まだ話の全容が見えてこない。


「今その国で教会の一派が、綾人さんのこと血眼で探してるんだよね〜。」


 俺もしかして知らないうちに指名手配されてる?


「ごめんねー、ってあだっ!いだだだっ!

 ごめんなさい!ごめんなさいー!」


 普段やらないけど足ツボもサービスしときますねー!!



side Unknown


 ちょうど一月前に最高司祭様に神託がくだって、神殿内では大騒ぎになったが今でも治まっていないらしい。

 らしい、と言うのは私が既に神事を取り扱う立場から退いた人間なので、そういう噂を耳にしたに過ぎないからだ。

 前回の神託がいつの事だったか、100年以上も昔のことで微かに学んだ記憶がある、確か神像を大きく作り過ぎて神殿の入り口に入らない事を教えてくださったんだっけ?


 とにかく王国に出入りがあった男を徹底的に洗い出し、告げられた特徴を持つものを探したが見つからなかった。

 お告げの内容は、


「赤き髪が混じる美少年を遣わせた。

 彼が世界を救うだろう、着いた際には失礼のないように。」


 だったか、随分具体的な内容だったから最初は司祭が寝ぼけていたんだろと思ったが、あの顔は本気だったので引退するついでに私も探してみたが見つからない。

 国内に居ないのなら、もしかして道に迷われているのではと、冒険者の護衛を引き連れて王国周辺を調べてみるが見つからない。


 まさか退職後の余生を人探しに割くとは思いもしなかったが、人生目標があることは良いことだ。

 有り余るエルフの人生、何も予定がなくては狂ってしまうから、狂っていった仲間を多く見てきたからな。

 ある奴は男になれる魔法の開発に勤しんだり、ある奴はありもしないシチュエーションのいかがわしい本を書いてみたり。

 とにかく狂った者たちの奇行を目にしてきた身としては、ああなりたくないものだ。


「エルフの姉御、流石に海の上までは付き合えませんぜ。

 ここいらで引き返しましょうや。」


 日を遮るもののない真っ白な砂浜に、うんざりした顔の剣士が提案する。

 海を渡る気は私もしないので引き返すとしようか、ここいらには恐ろしい竜も生息していると聞く…。

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