第65話

 いつもの割烹着に着替えて店の戸を開くと、もう屋台の前には行列ができていたので早めに開く事にした。

 夜まで続く祭りなので昼は蕎麦で、夜はおでんを振る舞う予定だが、仕込んだ分が足りるか不安になってきたぜ。


「お一人様一食までとなりまーす!」


「列の割り込みなどは禁止でーす!」


 リツとレンに列の整理をお願いして、配膳はアドリアネに、俺はひたすらに盛り付けをしていく。

 ニシン蕎麦風とソーキ蕎麦風で、魚介と肉を分けるイメージでメニューを作ったら、予想通り着ている服装や肌の色なんかで注文する蕎麦は決まっている感じだった。

 普段あまり口にしない物を頼むようにしているな、山の方では魚を食べたいし、海の方では肉が食べたい。


 ニシン蕎麦風の魚は海の村からの提供で、一年を通じて食べられている魚の干物甘露煮にして、濃口醤油の出汁にも提供してもらった昆布に似た海藻を使用している。

 ソーキ蕎麦風の方は山で採れた猪の肉と骨を利用してとった出汁に、市販の中華麺を使用した物になる、流石に中華麺の自作は諦めたよ。


 まだまだ暑い盛りだが、みな額に汗を浮かべて蕎麦を啜っている。

 屋台と言っているがカウンター席なんかはないので、長椅子を軒に連ねて並べているだけ日除けなんかは一切ない。

 暑い+汗をかく=脱ぐ、この世界での常識だ、みるみるうちに上裸通りの完成だ。


「うっわ、改めて常識ない光景ね。」


 ヘラ様が手で顔を扇ぎながら天使を引き連れて店の方に顔を出す、昨日の天使たちも随分常識外れの行動をしていたがヘラ様は寝ていたので知らないか。

 厨房でもガンガン火を焚いて麺を茹でているので中はサウナ状態、俺も汗と蒸気でとっくに割烹着なんて脱いでいた。


 なんか視線を感じる、どう見ても全員の視線が俺の胸部に集中している、しかも眼を合わせると凄い勢いで目線を逸らす。

 なんか変だな、思い返してみると初めてリツとレンに会った時もやけに胸ばっかり見られていた。

 この世界で男が胸部を丸出しにするのって変なことみたいだ、けどヘラ様や天使は別に男の裸なんて見慣れているんじゃないか?


side ヘラ


 いけないわ、何故だか綾人さんの乳首が気になってしかたない。

 上半身裸で料理をしているっていうアブノーマルなシチュエーションだから?どうしても目に焼き付けたくなってしまうわ!

 けど私だけではないみたい、周りの天使たちもチラチラ視線を盗んでは獣のような眼光を投げている。


 蒸気と熱気で室内は軽くサウナみたいになっているわ。

 店の引き戸を開け放ってしまいたいけれど、外の連中にこの光景は刺激が強すぎるわね。

 普通に私たちが出ていけば良いのだけれど、なんだか勿体ない気がして出れずにいる。

 とりあえずカウンターに座って…、もう天使たちでカウンターは埋まっているわ、自然に綾人さんを眺められるポジションだもの。


 ローズ、マリア、ルナ、クラーグにアドリアネが無理矢理にも場所をこじ開けようと尻をねじ込んでいますね。

 あれっ、サリアの姿が見えないと思ったら、大人しくテーブル席に腰掛けて蕎麦ができるのを待っています、普段の行いを鑑みると違和感があります。

 何か嫌な予感がしますね、神の勘が働きます。

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