おまけ 『貧乏兄妹と夏祭り』
はしゃぐ子供達と、騒ぐ大人達が神社の境内に向かって一筋の列を成している。
夏の終わりに差し掛かって、それでもまだ日が暮れてからの暑さが残る。
俺はバイト前の時間を妹と夏祭りに充てていた。
服装は半袖にジーパン、妹は少しだけどおめかしして普段着ないワンピースを着ていた。
にしても出店は高いな、リンゴ飴や綿菓子なんかもう予算オーバーだ。
射的やクジなんかとてもじゃないけど参加できない、金魚なんて取っても飼えないし。
はしゃぐ妹が俺の手をグイグイと引っ張って歩くが、もう片方の手には今日の予算である500円玉が手汗に塗れる。
あー、調子に乗って夏祭りなんてくるんじゃなかったな。
昔来た時はもう少し楽しかったけれど、今じゃ高校の頃の同級生とかと会うと気まずい。
学校辞めて夏祭りで遊んでいるところを見られたら、コイツ面倒で学校辞めたんじゃと思われかねない。
「あんまりはしゃいでると転ぶぞ、ちゃんと足元見て歩けよ。」
鳥居に向かって伸びる階段を、いざとなったら落ちてくる妹をキャッチできる距離がで登る。
数段登るたびに振り返る妹はの顔は、なんなら今年1番楽しそうだ。
普段はあまり家にいれないから、こんな日くらいは一緒にいてあげないどな。
「あれ、綾人くんじゃん。」
後ろから声をかけられ振り向くと、浴衣姿のグループの中にいた藤崎と目が合う。
あちゃー言った通り同級生グループと鉢合わせた、妹は知らない人の集団が嫌なのか後ろに隠れて俺を急かす。
藤崎以外のやつらも俺に気がつくが、なんと声をかければお互い良いのか分からない。
「少し抜けるねー。」
そう言って藤崎はこちらに歩み寄ってきて、その場を離れていく。
「勝手に抜けて、そっちは良かったのかよ。」
巾着を下げた手をヒラヒラと振って、
「なんか他校の娘と合流するらしくて、面倒だから帰ろうと思ってたんだよね。
ちょうど良かったよ、綾人くんがいて。」
自然と腕に絡みついてきて、薄い浴衣越しに胸が当たっている。
ぐんっと妹に手を引かれて引き剥がされる、そうだ今日のお相手は妹だった。
両手に花で神様にご挨拶をする、年末年始くらいにしか来ないのに何かをお願いするのは虫が良すぎるか。
結局買えたのは焼きそばだけだった。
藤崎が奢ると言ったけど、それは親が娘にあげたお金なので困ると言って断った。
口を汚し焼きそばを食べる妹に、一緒に屋台で貰った水を勧め喉に詰まらせないよう気をつける。
藤崎は学校がいかに退屈か喋って、妹はやけ食いのように焼きそばを掻き込む。
全部食べていいぞと言ったけど、微妙に残った焼きそばを頑なに俺に食べさせようと妹は突き出す。
両側の声に、祭りの喧騒が遠のく気がする。
なんて事のない 1日だった。
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