第43話
隣の村と言っても、山を一つ隔てた場所にあるボタンの村。
四方を山に囲まれた盆地にポツンとある村には、認識阻害の結界などは張っておらず山の頂上から見渡せる範囲で暮らしを送っている。
はっきり言って、めちゃくちゃ日本の原風景な見た目だ。
冬になると大雪に見舞われるので、村の家屋は全部が合掌造り風の高い三角の藁葺き屋根。
違和感といえば田畑が見かけられないくらいで、都会育ちの俺でも懐かしい気分になれる。
「野菜とか穀物とか、栽培するのは性に合ってなくてね。
必要なものは他の村と物々交換で分けてもらってるのさ。」
ボタンは住民とフランクな関係で、ちらほら見かける村人に挨拶していた。
すぐに隣を歩く俺に気付き、驚いたように目を丸くするが、
「ボタン様、とうとう男を狩ってきたんですかい?
こりゃあこの先の村も安泰だ!」
変な誤解を生じさせているだろ、てかボタンも否定しろ笑ってないで。
村人の普段着は裾が長いのが特徴で、山に囲まれているから虫や蝮に注意しているらしい。
海側に比べると少しだけ涼しい気がする、日を遮る木々のお陰か。
村では1番大きな建物がボタンの住まい、それでも他の家2軒分の慎ましいサイズだ。
「ツバキ姉の館に比べれば小さいかもしれないさ、あれは元々派手好きの母上が建てたものだし。
離れて生活する為に新しく作った村だから、歴史も浅いさ。」
浅いと言っても数百年は経過しているから、しっかりその土地の文化を感じられるけどな。
住んでいる者も竜だから、閉鎖的って程でもないが発展は少ない。
日々の生活を送れるくらいの狩りをして、たまに大物を捕まえて祭りをしているくらい。
「良いな、ボタンはそう言うけど俺はこの村の雰囲気も好きだよ。」
ワクワク感はないけど、落ち着く佇まい。
「おっ!なら、此処にも店を構えてくれるのか?」
身を乗り出して尋ねてくるが、もし店を出すならなんだろう、ジビエを活かした隠れ家的なレストランとかか?
ここ最近料理ばかりしていたせいか、本分を忘れている。
俺は料理人ではなくマッサージ師だったわ。
けどこれだけの自然的なものが揃っているのなら、環境を利用してリラクゼーション施設を営むのも良い。
まだこの世界の文化を理解したとは言えないが、ログハウスとかキャンプとか需要はあるのだろうか?
俺なら絶対にワクワクするんだが、中世だったらそうでもないのか…。
「まぁ気に入ってもらって、なによりだよ。
ここの住民は気のいい奴らばっかりだ、男だからって襲ってくる奴はいないと思う。」
けどモモってここに住んでたんだよな?
振り返ってモモを見ると、目を逸らして吹けない口笛をして誤魔化している、告げ口してやろうかな。
アドリアネが付いているから変なことは起こらないだろうけど、普段から肉体労働をしている人達だから1人の所を襲われたら敵わない。
「血の気の多い人が多いですから。
こんな危ない村さっさと後にして、あたくしの村に来ませんこと?」
ここぞとばかりにキキョウが服の裾を掴み勧誘してくる、ボタンが睨みを利かすがどこ吹く風。
だが今回の視察は、各村に一泊してみる体験型なので俺に文句はない。
「こらっ!ちゃんと話し合いで決めたのじゃろうが。
綾人殿の貴重な時間を無駄にするでない!」
ツバキのお姉ちゃん節を姉妹揃って無視している、体型が元に戻って再び舐められているようだ。
暴れて抗議しているけれど、子供の駄々こねにしか見えないぞ。
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