第42話

という訳で視察となったが、今度はどちらの村に先に伺うかで口論が始まった。

 止める役目のツバキは未だ立ち直れておらず、和室の隅っこで畳を弄って拗ねている、それを慰めるモモとリツとレン。

 アドリアネはホワイトボードに案をどんどん書き込んで忙しそうだし、仕方ないので俺がジャッジを下しにいくしかない。


「祭りといえば肉だろ!ならアタイの村が優先に決まってるぞ。

 猟師と打ち合わせしてもらって、準備に時間がかかるしな。」


「いやいや、ボタンちゃんの言うことも分かりますけど。

 こっちも野菜の収穫やら、必要な穀物の算出にだって時間が必要ですのよ。

 それにおもてなしの準備は、あたくしの村の方が豪勢にできます!」


 本当はどちらの村の食材にも興味はある、住んでいる環境も変わってくるだろうし、文化の擦り合わせもしないとな。


「いっそ殴り合いで決めてもらったほうが早いのでは?」


 アドリアネが興味なさそうに適当なことを言うし、こらこら本気にしない。

 当店で揉め事を起こしたら出禁にするからな、店の備品も壊したら許さない。

 けど、このままでは平行線だ。


「それなら、綾人殿のマッサージにより耐えれた者が勝者で良いのでは?」


 いつまでも立ち直らないツバキに飽きたのか、カウンターでお茶を飲んでいたモモが提案する。

 なんだ、俺のマッサージが拷問のような扱いを受けているのが納得いかない。

 ていうか、モモがその点では1番堪え性がなかったじゃないか。


「まっさーじですの?按摩の一種、それに耐えるだけで良いのでしたら。」


「手っ取り早いな、それでいこう!我慢対決でキキョウに負けるはずないし。」


 あれよあれよと話が進む、本人たちがそれで良いのであれば構わないが。

 勝手に盛り上がっている様子に、アドリアネはため息をつく。


「綾人さんのマッサージは安売りするものでは無いのですが。

 必ず内密にすることで、今回は見逃しましょう。」


 相棒というよりも、もうマネージャーって感じの風格だ。


 数分後、和室には2人の骸が転がっていた。

 もちろん死んではいないが、これは片付けが面倒そうだ。

 アドリアネが機転を利かせて敷いたバスタオルが、もう全滅と言っても過言ではない。

 目の前の惨状にツバキも酔いが覚めたような顔で、


「アタシもこんな風になっていたのか!?

 もったいない!まったく覚えておらぬぞ。」


 羞恥心が芽生えたのかと思ったが違ったようだ、もったいないって何がだ?

 勝敗を見届けていたモモもしきりに頷いている、何か通じるものがあったのか。

 アドリアネも!?


 結局、僅かに気絶が遅かったという理由でボタンの村はと足を運ぶ流れになった。

 目覚めたのは、もうすっかり日が暮れた後になったが飛び跳ねて喜んでいる。

 反面キキョウは畳を叩きながら悔しがっている、畳に当たるなよ。

 まだまだですね、という顔をしているけど乱れっぷりならアドリアネも大差ないから。


「晩御飯はまだかのう?」


 ツバキはマイ箸を両手に持ってお茶碗を叩いているし、行儀が悪いからやめなさい。

 モモも一緒になってご飯コールが止まない。

 なんだか大家族の長男になった気分だ。

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