第31話

 マッサージが終わったあと、ツバキはひと回り成長していた。

 元が小学生くらいの体型だったのが、中学生くらいになったのだ。

 摩訶不思議な体験だが、竜としても成長したらしく、成人、いや成龍?となったらしい。

 魔力的な成長に関しては完全に門外漢なので、言うことは何もない。

 説明も難しいのだが、なんとなく凄味は出た気がする、くらいの感想だ。


 アドリアネ曰く、もはや全く違う生物となったくらい強くなったらしい。

 そんなもんなのか、マッサージ中にメキメキ大きくなっていくお客なんて初体験だから分からない。

 立ち上がったツバキは柔軟運動をしながら、成長した身体を確認してしている。

 せめて服を着てから動き回ってほしい。

 元々この世界の女性は羞恥心が薄い傾向にあるが、今のツバキは特に酷い。

 脇の下から、尻の穴まで開放的に動かし周り、もうイヤらしい気持ちにならないレベルだ。


「では軽く試してみますか。」


 軽いノリとは裏腹に、外で行う戦闘は苛烈だった。

 被害を出さないよう、村の外での模擬戦闘だったが改めて良い判断。

 砂浜には抉れたような後が複数刻まれ、近くの森は何本か大木がへし折れている。

 ツバキはアドリアネの攻撃を何とか凌いでいた、ぱっと見は弱い者いじめをしているかと思われるが、死んでもおかしくない攻撃もあったので良くやっているとも思う。

 ツバキの表情が固いのも、アドリアネが手加減していないからで、つまり成長しているということ。


「どうですか、自分の成長がわかりますか?

 私の組手をこうも防げる者は、天使の中にも少ないですよ。

 誇りなさい。」


 トドメと言わんばかりに、掌底を喰らわせツバキは海面を水切りのようにバウンドして跳んでゆく。

 遠くの方で水飛沫があがって、しばらくしてからツバキは満身創痍といった具合に上がってくる。

 見た目は怪我もなく、顔つきは疲労困憊しているから体力以外のものをゴッソリと持っていかれたようだ。

 比べてアドリアネのほうは息切れひとつせず、弟子を見るように成長に満足していた。



sideツバキ


 この天使は本当にアホじゃろ。

 実践してわかる圧倒な力の差、竜相手に殴り合いを挑む時点で異常な生物なのだ。

 神聖魔術を使用しなくとも、膂力のみで文字通りに大地を削り海を割る。

 特に最後に放った掌底、三重に構築した結界を正面から全て叩き割られた。


「だいぶ良い出来ですよ。

 ただ、もう2、3結界は厚くしたほうが良いですね。」


 アタシがびしょ濡れで陸に上がってきたのを見下ろしながら、天使は組手の終わりを告げた。

 死ななかった喜びと、溢れかえらんばかりの怒りと、少しの感謝が入り混じる。

 もう2、3じゃと?あの刹那に結界の重ねがけできる猛者がこの世に何人いると思っておる!

 ぐぬぬ、言い返したいが組手を続行されるのは嫌じゃ。


「まあまあ、お疲れ様。」


 そう言って、よく水を吸う布をアタシの頭にかけ綾人殿は拭いてくれる。

 ふぁあ、アタシ実の母親にもこんなに優しくされたことないぃ。


「綾人さん、私も汗をかいてしまいました。」


 蕩けそうになっていく思考を天使が邪魔をする、嘘つくな汗一雫も見えんわ!

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