第30話

 極秘のマッサージということで、館の使用人は外に人払いしている。

 取り揃えられたお香から、組み合わせを考えて部屋の四隅で焚く。

 敷布団に一糸纏わぬ肢体が投げ出される、全身の赤色の鱗には滲み一つない。


「それでは始めていきます。」


 顔に薄手の布を被せ、まずは手から。

 視界を覆うことでマッサージに集中してもらうためだ。

 最初は緊張からか、ポイントを変えるたびに反射として動いてしまうが、じきに全てを任せてリラックスしてもらえる。


 今回のマッサージのテーマはリラックスだ、疲れが溜まっていると想定して施術するようにアドリアネに頼まれている。

 前回の病からまだ日は経っていないので、体内の魔力が循環不全を起こしているらしい。

 もちろん俺には魔力の流れなんて見えないから、マッサージするポイントはアドリアネから指示をもらう。


 時は遡ること1時間ほど前。

 竜の中でも派閥があるようで、各村をツバキの妹たちが仕切っていた。

 ローズという大黒柱を失い、それぞれの村は独自に進化していき、現在は離縁状態となっている。

 その村が今回、俺を囲い込んだという噂を嗅ぎつけて謀反を起こすという。

 傍迷惑な話だが、発端が俺たちということで無視できない。


 アドリアネが一掃してしまえば、問題解決なのだが。

 天使は直接争いには関わりたくない姿勢らしく、ヘラ様にバレたら面倒だと言う。

 なのでツバキを万全な状態にして、村のことは村で解決してもらおうという作戦。

 俺のマッサージにそこまでの効果があるか分からないが、とにかく指示に従って作業するしかない。



sideツバキ


 この前された按摩と違い、香を焚き儀式的な雰囲気が漂っている。

 これが本来の『まっさーじ』というやつなのか。

 顔に布が被せられ何とも不思議な儀式じゃのう。

 部屋には2人きりでないのが少し不満じゃが、辛抱堪らなくなった時に止めてくれる者が必要なのも事実。

 視界が奪われておるので、綾人殿の指先を敏感に感じる。

 肌が粟立つ感覚、何処を触られても下腹部に快感が直通しておる。

 魔性の手じゃな、白魚のような指先が流れるように身体の各所を刺激してくる。

 おぉう、そんな所まで!鼠蹊部も臀部も優しく、時には強くと一向に慣れさせてくれぬ。


 快感を隠すことはもうできぬ、きっとだらしない顔をしていることだろう。

 この布はそれを隠す意味もあるのか。

 服も脱いでいて正解じゃな、あまりにも粗相が過ぎる。


「終わりましたよ。」


 えっ、もう終わったのか?

 つい先ほど始めたばかりではないか、布を外して起き上がると、足元には巨大な水溜まりができておった。

 こんなになった記憶がないということは、アタシもしかして気を失っていたのか?


 にしても身体が軽い、病み上がりとはいえ不調も感じていなかったが、それに比べても所作の一つ一つが見違えるように軽くなった。

 まさに生まれ変わったようじゃ、いまなら昔の母上の様に動けるかもしれぬ。


「流石です綾人さん、今のツバキの魔素量は全盛期のローズと比べても遜色ないです。

 元より素質はありましたが、たった一刻半でこの成長量は異常ですね。

 ツバキも自分の成長を実感していますね?それは本来は今後数百年を賭して手に入る能力です。」


 天使が告げる、確かにそう言われると自分姿が少し大人びているのに気がつく。

 強制的に成長を促しよったのか。

 そもそも竜の成長は遅い、それは長命種共通で子供のような姿で長く過ごす。

 これは禁術とされてもおかしくない、食事処を始めると言った時も不思議じゃったが、いま納得した。

 

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