第28話

 これは成功と言っていいのだろうか?

 物凄い早足でツバキは店を後にした。

 昨日練習させられた小っ恥ずかしい演技が、功を奏したのは間違いない。


 提供した料理は、もちろん俺が作ったものではない。

 料理は作ったことはあるが、一般家庭レベルのものしか生み出せない。

 この料理はアドリアネがまたどこかから取り出した、コンビニなんかでシリーズとなっている、母親の手作り的なチルド商品を温めただけのもの。

 これで手作りと思ってもらえるならコスパが良いのか。

 というかアドリアネは一体何処から、あちらの世界の物を取り出しているのか、4次元ポケットを標準搭載しているのだろうか?


「これはヘラ様にリクエストして調達してきたアイテムです。

 頼めば大抵のものは送ってきて下さりますよ、あちらの世界にはローズもおりますのでパシらせて平気です。」


 天使をパシリにしてもいいんだ、ヘラ様も協力してくれているのか。

 厨房を見渡すと、調理器具も一通り最新のものが揃っている。

 ミキサーや電気圧力鍋なんかも見当たるけど、この世界の電気ってどうなんだろう。


「これは、こう使います。」


 アドリアネがコンセントのアダプターを握ると稼働する。

 使う機会があるかはわからないけど、便利なことは確かだ。



sideアドリアネ


 目論見通りです、ツバキは裸足で逃げ出す勢いでした。

 とにかく男というものへの免疫が低い。

 襲われるリスクはありますが、こちらの芝居に乗せてしまえば簡単に狼狽えます。


 いやー自分の好きなシチュを繰り広げられるのは、見ていて痛快な気分になります。

 まさに、この世界の夢と幸せを体現し商売とする。

 これぞwin-winな関係でしょう。


 食い逃げしたツバキを追って、館でへと出向きます。

 とっちめるのが目的ではなく、今回のヒアリングを行うためですので。

 館の使用人は私のことを見るたびに、心配になるくらい怯えますが迷惑です。

 強行突破しようと思えば、いくらでもできますが我慢我慢、今後お客になるかもしれぬのです。


 座敷に通されて待つことしばらく、息を切らせてツバキがやってきます。

 落ち着きのないこと、まさに母親譲りですね。

 息切れと顔の赤さが合ってないですが、コイツもしかして昼間から…。

 私も大胆な方ですが、助平が過ぎるのでは?


「こほんっ、どういったご用件か。」


 芝居がかった咳を一つ、崩れた帯を直してみせる。

 今更取り繕ったって遅いだろう、誤魔化せているつもりなのか。


「いや、ご挨拶をする前に帰ってしまわれたので。

 何か急用でも、思い出されたのかと。」


 仕方ないので気づかなかったフリをしてあげましょう。


「急用…そう、捕らえた竜のことで急用を思い出してな!

 挨拶もなしですまなかった、急いでおったのでな!」


 から元気で乗り切ろうとしている、だいぶ滑稽だが。

 そうか竜は捕らえられて大人しくなったか。


「そこで、少し相談なのじゃが…。」


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