第27話
sideツバキ
ぷれおーぷん?なるものに呼ばれのじゃが。
軒先には紙で作られた灯りが下がり、扉には半端な長さの布が下がっておる。
布には大きな手のひらのような、いや植物の葉が描かれている。
見たことのない趣向じゃが、それ以外に手を加えられた様子がない。
この居住まいで店とはな、仮にも村では1番偉い立場にいるアタシを招待するには見窄らしい気がするのう。
店の前には、あの天使が作り出したであろう映像が映されている。
神聖魔術を宣伝に使うなぞ、いったい何を考えているのやら。
映像の内容は、
「これから貴方の体験する空間は、現実のものではありません、あくまでも仮の設定です。
貴方は、暮らしの仕事が終わり、帰路につく途中で馴染みの料理屋に立ち寄ります。
ここで働く男将は、若い頃に女房を亡くし男手一つで残された店を切り盛りしています。
この体験は現実ではありません。
現実とは違うことによる文句などは一切受け付けません。
それでも宜しければご入店下さい。」
不思議な文言だ。
ようは、向こうの芝居を一緒に体験するということなのじゃろう。
気恥ずかしいが、せっかく招待されたのだから付き合ってみるかの。
「いらっしゃいませ。
あぁ、また来てくれたんですね♪」
ふおぉぉ!!
これまたイジらしい姿をしおって、天使が居らなんだら挨拶代わりに尻でも撫でたいぐらいじゃわい。
ハダけているわけでもないのに、醸し出す色気が室内に充満しておる。
上手いこと考えたのう、この古びた家屋も相まって馴染む。
これを考えたやつは相当の助平に違いない、解る。
何故ならアタシも助平だからじゃ。
「の、のぅ綾人殿、呼ばれて参ったぞ。」
「んもぅ、他人行儀な呼び方しちゃって。
いつものように、アヤトって呼んでくださいよ。
今はお客さんも少ないんで、好きなところに掛けてくださいね。」
誘っておる、間違いなく誘っておるぞー!
ええい今すぐ机に押し倒してひん剥きたい、いやあえてこの姿のまま乱暴に…。
柱の影から突き刺すような視線を感じ、アタシは居住まいを正す。
これは試されているのじゃな。
この芝居に最後まで付き合うことこそが、綾人殿を正式に村へ招き入れたことになるのじゃ。
そう言い聞かせねば辛抱堪らん、ちょっと涙目になってしまう。
席へ腰掛け、次の誘惑に備える。
すると頼んでいないのに、料理が運ばれて来た。
箱入り娘であったが、店での常識くらいはある、注文をせねば料理は準備されぬものだ。
「はい、これ。いつものね。」
なるほどぉ、最初に提示されていた常連というのが活きてくるわけか。
皿に乗せられておるのは、ここら辺では珍しくはない魚の煮物じゃがこの雰囲気もまた良し!
できれば綾人殿の手作りを所望したいところではあるが、おそらくは奥の台所で巫女の姉妹が作っているのであろう。
一口食べて目を剥いた、なんじゃこの料理は!
館で作られる物よりも美味しいではないか、もしかしたら生まれてから1番かもしれぬ。
丁寧に骨が避けてある、鱗もしっかり除かれており、身も箸でホロホロと食べやすい。
しかし、これだけ柔らかく煮詰めればパサパサとした食感が残るかもしれぬが、もちろんそれも無い。
煮汁がしっとりと馴染んでおる、これほどの逸品を姉妹が作れるとは思ぬ…。
もしや、これは綾人殿の手作りでは?
「お口に合ったようで良かったです。
今日の煮しめは普段より美味しくできたって評判なんですよ!」
おおぉぉぉぉ!好きになってしまう。
いや、もう十分過ぎるくらい魅力的なのじゃ、これ以上はいけない抑えきれない。
急いで煮魚をかき込み、出口へと向かう。
声を出せば、絶対に余計なことを言ってしまう自信がある。
そして間違いなく天使に粛正されるだろう、この村の今の状況を考えるとそれは拙い。
名残惜しいが、楽しむのはまたの機会にするとしよう。
アタシは軽く会釈し、手で口を抑えて館へと逃げ戻った。
その晩、あの光景を思い出し5回は達してしまったのは内緒だ…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます