第25話

sideアドリアネ


 羽虫を一匹落としたところで、自慢にもなりません。

 周囲のものは呆然としていますが、進路の邪魔なので早く連行して欲しいところ。

 まったく綾人さんに手を出すなど、1000年早いです。

 ここでローズから念話が飛んできます、


「身内がすまねぇ。

 昔はこんなに粗暴じゃなかったんだけどねぇ。

 いったい誰に似たんだか。」


 私はこの竜に似た人物を知っているのですが、それが誰か言うのは野暮なので返答はしません。

 ローズは現在は天使ですが、転生する前は竜の長だったともあり責任を感じているようです。

 私に何かしてきた訳ではないので赦すのは簡単ですが、パートナーに有害な接近を試みたのです、処罰を検討しなくては。


「竜だから簡単には死なないと思うが…。

 手加減してやってくれよ?」


 鬼じゃないのですよ、私は?

 わざわざ殺さずに、墜落させてあげたじゃないですか。


「いや、身動き取れなくして叩き落とすのは、充分に鬼の所業だぞ。」


 綾人さんまで!?

 優しく落とした説明をしますが、店予定地に到着するまで一歩引かれていた気がします。

 店舗(仮)に着きましたが、ボロ過ぎませんかね。

 なんなら木製の引き戸はへし折れていますし、店の脇には臭い水溜まりもありますし。



side A


 嫌な予感は当たる、丁度襲われた場所が充てがわれた店舗の真前だ。

 木製の引き戸は。竜人の姉妹が打ちつけられて真っ二つに割れているし、モモとか呼ばれている竜の粗相も昨晩のままだ。

 うーん、先ずは修理からか。


「こんなにボロボロじゃったかの?

 まさか戸まで壊れておったとは、済まないのう。」


 昨晩までは壊れてなかったのだ、ツバキに謝られることはない。

 後ろに付いている竜人の姉妹も、なんだか気まずそうな面持ちだ。

 アドリアネは扉を掴み、しばらくすると折れた部分が繋がっていた。

 元通りとまではいかないが、十分に機能する。


「壊すのは得意なんですが、やっぱり直すのは不向きですね。」


 なんというか、想像通りです。

 しかし、直してくれたは助かるので素直に感謝する。

 建物の中には使い込まれた机や椅子に、カウンターもある。

 ホストクラブというより、完全に小料理屋だ。


「うんうん、なるほど、なるほど。」


 イメージとかけ離れている気がするが、アドリアネは頷きながら店内を散策する。

 何かアイデアを思いついたのかもしれない。


「元々は料理を出していた店なんじゃが、村を締め切ってだいぶ経つのでな、店は畳んでしもうた。

 中にある物は、なんでも好きに使ってくれて構わん。

 開店の祝いにはまた来るから、楽しみにしておるぞ。」


 ツバキは用事があるのか、早口で捲し立ててその場を後にする。

 竜人の姉妹は、サポートで好きに動かして良いとも言われた。


「兄貴!改めてよろしくお願いします!」

「お姉ちゃん共々、精一杯頑張ります!」


 なんだか昨日の事で、やけに懐かれたみたいだ。

 アルバイトみたいなものかな、とにかく人手は少ないので助かる。 

 古びたテーブルに腰掛け、一息つく。

 年季の入ったカウンターを、アドリアネは満足そうに撫でている。


「これは使えますね、私のイメージにピッタリですよ。」


 俺にはどうにもピンとこないが、本当に何屋を目指しているのか。

 とにかく、託された使命を果たす手助けになれば良いけれど。


 兎にも角にも、これにて念願?の自分の店を構えることになったのだった。

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