第24話

 説明、もとい言いくるめられ俺の店はホストクラブになった。

 正直に言って、自信がない。

 アドリアネがウキウキしているが、本当にキャストの仕事以外を丸投げして大丈夫なんだろうか。

 この笑顔に、やたらと期待の目線を飛ばしてくる目、不安だ。


「ほぉ、先の母上の居られた御殿を作るのか?

 それは難儀しそうな願いじゃの…。

 なに?小さい建物でも構わないのか、しかしあの様な煌びやかな装飾は…、それも要らぬのか。

 ならば館前の通りにある、空き家を使用して構わぬ。」


 館の前にある通り、おそらく店が立ち並んでいた場所のことだ。

 村の中では一等地だろうが、表向きはホストクラブで裏ではマッサージもやるのか。

 通りで思い出したけど、そういえばその場所で昨晩襲われてないか?

 

 場所を確認しにいこうと館を出ると、視界が一気に暗くなる。

 上空に巨大な物が飛来し、足元全てに影が差した。

 見上げると、巨大な竜が浮いている。

 サイズだけなら、昨日のツバキが見せた姿よりも遥かに大きい。

 それにあの下品なピンク色のウロコは、たぶん昨日襲ってきたヤツだな。


「おうおう、また会ったね色男さん。

 昨日は途中で帰っちまうなんて、酷いじゃないか。

 ウチから迎えに来てあげたんだ、村に連れて帰って続きをしよう。」


 上空から水が降ってくるが、どうだろう涎か別の汁か判断が付かない、どちらにせよ避けるけども。

 ツバキは見上げた竜と知り合いなのか、


「うげっ、なんでこんな所におるのじゃ。

 しかも綾人殿と面識もある口ぶり、よもや昨日の道中に襲われたと言っておったのも…。

 うっ、頭が痛い…。」


 少しストレスが強すぎたのか頭を抱えている始末。

 手を繋ぐアドリアネは、先程の希望溢れる表情が一変、上空の竜を睨み殺さん勢いだ。


「おっ、ツバキのアネさんじゃないですか。

 お機嫌いかがですかね?

 あちゃー、もう色男はお手つきですかね、仕方ないですが今後は竿姉妹ってね。」


 ガハハと大口で笑う竜は、それはそれは下品な山賊のようで。

 ツバキの顔はどんどんストレスで青くなっていくし、アドリアネの目は完全に据わっている。


「何を言うのか喋らしてみましたが、とんだアホ爬虫類のようですね。

 自分の身体が動かなくなっていることにも、気がつかないとは。」


 もういいとばかりに指を鳴らすと、大音量の下ネタトークが止む。


「粛正します。」



sideツバキ

 

 アホな妹分が、結界内に侵入していた。

 のみならず、綾人殿を強姦しようと襲いかかったと。

 あたた、胃までも痛くなってきたかもしれん。

 しかもアタシと知り合いなのも当然バレたし、竜の時点でバレていたか。

 せっかく滞在して貰えるのに、なんでトラブルが続くかの。

 いい加減に黙らないか?

 どう見ても、あの天使ブチギレておるぞ。


「あの下品な爬虫類の処分は、私が行っても?」


 了承以外は求めてないじゃろ、その目。

 黙って頷くと、まるで蝿でも叩き落とすかのような仕草をしだす。

 その瞬間、バンっ!と大気を揺らす轟音と共に、モモが庭先に墜落してきた。

 天使の神聖魔術は出鱈目じゃあ、行動した後でさえ何が起こったのか理解できぬ。

 アレと素手で殴り合っていた、母上の評価が更に上がる。

 回復したアタシでも、2秒も持たずにモモと同じ運命を辿るであろう。


 殺してはおらぬであろうな、墜落したモモの瞳を開けると気絶しているだけのよう。

 ひとまず安心ではあるが、この尻拭いは面倒だ。

 天使を見ると満足したのか、歯牙にもかけずさっさと庭を後にする。

 綾人殿はどうすんのと、顔に書いてあるが。

 天使というのは、本当に自由な生き物だ。

 母上が言うには、アドリアネに命令できるのは唯一神か相棒のみだと。

 あと絶対に敵に回すなとも、これは今からの努力次第。


 にしても余計なことを増やしよって、モモは起きるまで地下牢に幽閉じゃの。

 たっぷり問い詰めてやらねば。

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