第22話


 しばらく時間が経ってから、別部屋からツバキは帰ってきた。

 再会の喜びと、驚きから立ち直ってはいないけれど話は戻ってきた。


「それで、褒美を考えているのじゃが。

 正直そなたらの望むものが分からぬのが現状。

 なにか欲しいものがあったら言ってくれ。」


 なかば投げやりになっているのも、衝撃の再会による疲れなのか。

 欲しいものか、現状無一文だし服もこれ以外ない。

 家もなければ職もない、あれ?

 資産と呼べるようなものは、何一つとして持ってない現在ってホームレスでは?

 かと言ってここで、金が欲しいなんて面の皮が厚いことは言えない。

 今後の明確な展望もないから、どうしようかとアドリアネを見る。


「でしたら店を構えてみるのはいかがですか?」


 アドリアネも旅を急ぐ気もないようだ。

 店か、悪くない気がする。

 職も住居も一挙両得の案だと思う、手元にあるのはアドリアネとマッサージの技術のみ。

 マッサージはこの世界でも受け入れられると思う、風俗的な意味合いが強めかもしれないが。


「おぉ、我が村に店を構えてくれるのかえ!!

 ならさっそく建物を準備しよう!」


 想像していたよりもツバキは乗り気だった。

 俺の店か、考えると自分の店を持ってみたいという願望は働き始めたころからあった。

 砂浜に描いていた間取り図だって、考え始めたのはずっと前だったし。

 アドリアネが店をだすなんて突拍子のないことを言い出したのも、もしかして浜辺の絵を覚えてたからかもしれない。


「そういえば、さっきの映像なんだけど。

 なんで俺が生前勤めていたホストクラブに、天使がご来店しているんだ?」


「頭が痛い話ですが、あれも調査の一環でして。

 綾人さんの死因を生み出した、外神の影響がどの程度のものかを調べています。

 ローズも綾人さんの護衛希望者だったのですが、どうにも希望者が多くて。」


 えっ?俺って知らない間にモテ期が来ていたのか。

 死後に評価される人間って、こんな気分だったのかな。

 それよりも人間1人に対して、大がかりな捜査が展開されているらしい。


「まぁ、他の希望者は実力で黙らせましたけどね。

 なので綾人さんのパートナーは私1人です、ご不満はないですよね。」


「なっ、ないですよ。

 最高の相棒だと思いますぅ…。」


 圧が凄い。

 腕ずくで奪った立ち位置だからこその、昨日の暴走だったのか。


「聞いてなかったのも不思議だけど。

 俺って死んだよな?けど今生きてるのはなんでなんだ?」


 前提条件を吹っ飛ばして、本当に今更な質問だ。

 本来は俺の死体が、地球から消える事なんてない。


「簡単に言うと、綾人さんの身体というよりも、私の分身に綾人さんの魂を憑依させた依代です。

 もっと言うと、私の弟ってことですね。」


 この身体の違和感を感じたのは、気性の荒いピンク色の竜と対峙した時。

 無理やり唇を奪ったが、あの怪力ぶりを発揮した竜をいとも容易く扱えた点。

 あと、この股間のコレ。

 こんなの生前に付いていた記憶がない。


「オプションで変更しておきました。

 この世界では何かと便利だと思いまして。」


 顔の前でピースサインをするアドリアネに、そっと額に手を添えてアイアンクローをかます。


「痛いです、流石です私の分身。

 この私にダメージを与えるとは。」

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