第21話
「頭を上げてほしい、客人、いや綾人様と呼んだほうがよろしいか。
アタシの病を癒してくれたこと、まず心から感謝する、ありがとう。」
外の皆んなが落ち着いたようで、一旦の難は逃れた。
気づけば高級そうな椅子に座らされ、アドリアネ共々上段へと担ぎ上げられていた。
眼前には2、300の群衆が膝をつき並んでいる。
これは本当に柄じゃない、不相応なこと甚だしい光景だ。
「いえいえ、お力になれたこと幸いです。
それでは、ここら辺で俺たちはお暇して…。」
「いやいや、ここで褒美を渡さぬとなれば臣下に顔向できぬぞ。
もう少しごゆるりと。」
まさに押し問答。
面倒ごとの前にさっさと逃げようと考えていたが、見透かされてるように袖を引かれる。
もしやまだ面倒なことが待っているのか、元々観光にやってきた訳ではないから予定なんてないが、その代わりに使命は託されている。
横目でアドリアネを覗くと、先程の謝罪に大層不服なご様子。
「確かに、横の『化け物』が、村人を可愛がってくれたようですが…。
それは水に流しましょう。」
ニヤニヤと許すふりをしてツバキは責め立ててくるが、辞めておけ相棒は俺の制御下にはない。
あーぁ、どんどんと不満を募らせてらっしゃる、知らないぞ本当に『化け物』じみた事されるぞ。
「躾の甘い事で、ローズに甘やかされて育てられたみたいですが、私は優しくはないですよ。」
ローズとは、初めて聞く名前だが花繋がりで竜の1人か。
「母の名前を騙るではない!
そもそもお主が母の友人などと初めて聞いたホラ話ぞ。」
母親だったのか、死別したって聞くけど昔馴染みだったのかな。
「ローズは生きていますよ。
なんなら、本人を呼び出して語らせましょうか。」
親指と小指を立て、冗談みたいな振り付けだがアドリアネは電話をかける。
電話?が少し進み、もう片方の手で指を弾くと、天井に巨大な映像が映し出される。
煌びやかな装飾、ガラスのテーブルにシャンパンタワー、スーツを着崩した男衆。
どっからどう見てもホストだろ、しかも俺が働いていた『Adam S』の店内。
そこには真っ赤なドレスに身を包んだ、妙齢の女性が両手にグラスを傾けている。
「えっ、アドリアネっ!?」
映像が繋がった瞬間、満面の笑みが素早く青ざめる。
こんな場面は醜態でしかないが、この映像を見ている村人たちには酒池肉林のまさに夢のような世界。
皆がローズの健在よりも、周囲の光景に涎を垂らす始末。
この中でちゃんとローズを認識しているのは、おそらく俺たちとツバキのみ。
「お母様っ!」
「正確には生きていたのではなく、生まれ変わって天使の一員となったですが。
感動の再会?でよろしいですかね。」
映像が見えるってことは、向こうにもこちら側が見えているようだ。
アドリアネの額に、みるみる青筋が浮かび上がり、それに比例してローズは無言でよそ見をしている。
「あなた調査という名目で、地球で遊び呆けているように見えるのですが。
私の見間違えですよねぇ?」
圧が凄い、ローズは滝汗かいて俯いている。
こんな情けない場面を、実の娘に見せるのはどうだろうか。
いやツバキもキラキラした目で見ているから、おそらくは幸せな勘違いをしているに違いない。
わざわざ痴態を説明する気にもならないので、弁明を聞かずに2人で話をする機会を与えてみる。
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