第20話


 よく寝た気がする、何か温かいものに包まれていたような。

 枕を摩ると、変な声が聞こえる。

 見上げると豊満な乳、平時なら喜んでいたかもしれないが見上げると、何かよく分からないのが本音だった。

 谷間から覗き込むアドリアネの顔で、ようやく現状把握することができた。

 恍惚とした表情が見えたので、ギョッとして覚醒できたのだ。


「えーっと、どのくらい寝てた?」


「5、6時間ほどですね。

 よい寝顔が見れましたよ。」


 感想は求めてないのだけど。

 周りを見渡すと、従者が1人、姉妹がセット、あそこで大股広げてるのが1人。

 全員が全員、微動だにしていないのがシュールだ。

 たぶんアドリアネが何かしているのだろう。


「アドリアネさん、もういいでしょう。」


 水戸○門みたいなセリフを言ってしまった。

 アドリアネが指を鳴らすと、時が進み出したかのように皆動き出す。

 一同にツバキへ駆け寄るのを見ると、本当に慕われているんだなと再確認させられた。

 一皮剥けば随分なエロババアぶりだったけれど、村では人格者なのだろう。

 そのツバキも気がついたようで、自分のあられもない姿を慌てて繕っていた。

 肌蹴る裾から変色していた部分が覗いたが、もうすっかりと周りの肌と同じ色に馴染んでいる。

 これで問題解決、一安心といったところ。


 館の外が騒がしい、もしやアドリアネさんや道中の村人全員固めていた訳では…。


「テヘペロっ♪」


 効果音付きで舌を出す、可愛いけど許されることじゃないでしょう。

 客という立場ではあるが、余りにも無粋な行動が重なりすぎたかもしれない。

 俺自身はそうでもないかもだが、相棒がこの調子である。


「まぁまぁ、いいではありませんか。

 とりあえずは喜んでいるようですし。」


 ツバキの様子を見て、姉妹も従者も小躍りするくらいに喜んでいる。

 確かに、これだけ喜ばれたら仕事し甲斐もある。


 視界の端に映り込む、引き裂けたドアが気を重くさせるけれども。



sideツバキ



 昨日までの倦怠感は何処へやら、すっかりと調子は戻った。

 男に触られたぐらいで復活しているようでは、とんだ好事家と笑われるかもしれぬが。

 乱れた髪を直しながら、袂を覗くもとすっかり赤色の鱗へ戻っている。

 あの説明、本当だったのだな。

 他者に魔力を譲渡のみならず、魔力総量の上乗せまでもか。

 触れたところ魔力を感じなかったから、おそらく人間のこの男とんでもない。

 この能力だけで、この世界の魔術の根底を覆しうる性能。

 それにセットで最強生物の天使を従えておる、あぁどうにかして抱え込めぬかの。


 不敬を理由に、勾留してみてはどうか?

 いや、天使がいる時点で不可能じゃ。

 竜の力を欲しいままにできるというのは?

 それも天使がおるから不要か。

 歓待して留まらせるくらいしか、思いつかん。

 しかし、この小さな村では人材にも資金にも限界がある。

 この能力じゃ、他にも引く手数多なのは簡単に予想できる。

 それにアタシは命を救われた身、これで縋り付く行為は浅ましいじゃろうて。


 結局のところ、悔しいが見送ることしかできぬ。

 褒美を考えておくのが先かのう。


「今回は、ご迷惑をおかけしました!

 アドリアネにも悪気はなかったんです。

 本人も反省しているので、大目にみてやってください!」


 何故か頭を下げられたのじゃが。



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