第12話
手前の短い階段を登り、大きく重そうな扉が開かれる。
建物内は外観よりも親しみやすい見た目で、和モダンな内装をしている。
そこにずらっと使用人と思わしき村人が、深いお辞儀をしながら出迎えてくれた。
言い伝えにどのくらいの信憑性があるかはわからないが、少なくとも村人は全員信じているみたいだ。
館の中でも姉妹が先導し歩いていく。
おそらく館の中心部にあたる部屋の前で止まる、目的地に着いたのだろう。
扉の取手に手をかけたまま、姉妹は話す。
「ここから先に竜姫様がおられます。
兄貴の命は必ず保証しますが、くれぐれも礼を失した行動は謹んで欲しいです。
それと、先ほど説明させてもらいましたが、姫様は体調が優れません。
気が立っておられるかもしれませんが、どうかご容赦ください。」
念押しするよう、警告を受ける。
話を聞く限りでは慈悲深いが、それは身内への顔のよう。
確認を含めて、頷いて返答する。
扉がゆっくりと引かれて開いていく。
むせ返る程の濃い芳香、決して不快な匂いではないが部屋中に煙が舞っている。
部屋の照明が、煙の中で反射し輝いていた。
部屋の最奥に一段高くなっている場所があり、そこに机へと縋るようにした待ち人が見える。
軽く手招きするように近くへと通される、まるで見えない力に引き寄せられるようだ。
これは警告されるまでもなく、無礼を働ける状況ではない。
近くで見ると息を呑むほどの、美少女が待っていた。
その見た目は案内してきた姉妹よりも幼く、小学生くらいにしか見えない。
だがその表情は暗い、この表情は、よく見た事があった。
全部を諦めている顔つきだ。
夜の仕事をしていると普段の生活をしていたら、関わらないような人間ドラマを見ることがある。
その中には、こんな表情をしたお客さんが紛れていることがある。
状態は俺が考えていたよりも、悪いのかもしれない。
「そなたが、アタシを治す医者かえ。」
見た目相応な声の高さだが、ファンタジー世界の中だ実際の年齢は想像も及ばない。
この間は返答を期待されているのか、それとも確認しているだけなのか、隣の姉妹は跪き俯いているだけ。
「い、いいえ。
俺はしがないマッサージ師でしかありません。」
どうやら事前情報との齟齬があったようだ、軽く首を傾けながら、
「まっさーじ?とは何なのだ?
村の外に久しく出ていないものでな、そのような職業があるのか?」
今度は俺じゃなくて姉妹の方に問うた。
「いえ、私たちもそのような職業は初めて耳にしました。
彼の行動を見るに、おそらく按摩を生業にする職業らしいのですが。」
「ほう、按摩とな。
しかし、男の細腕で施術されても効かぬのではないか?」
男の細腕というのも、違和感がすごい。
この世界の言葉が判るようにされているとはいえ、直訳で入ってくる言葉は現世の常識に当てはまらない発想だ。
「確かに女に比べ腕力は劣ると思われますが、腕前は一流かと。」
もしかして部屋の様子も覗かれていたのかな?浜辺では営みと勘違いしていたようだし。
認めて貰えるのは素直に嬉しいが、異世界の病に実力が活かせるかと言われると怪しい。。
マッサージからセラピストとしての側面へ切り替え、相手を癒すことを目的にしたほうが良いかもしれない。
「なるほど、わかった。
案内ご苦労、そなたらは下がってよい。」
姉妹は言われた通り、部屋を後にした。
扉を閉めるとき、目が合った。
心配そうな目線はどっちの意味と捉えればいいのか。
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