第11話

sideレン


 死んだかと思ったぁ。

 生まれて初めて、明確に死が目の前にあったと思う。

 初めて会ったけど、たぶん竜姫様の血縁だろう。

 他の村には行ったことないけど、血の気の多い人が屯しているらしい。


 それにしても…。

 

「兄貴!大丈夫でしたかっ!」


 リツちゃんが完全に堕ちた、もちろん私も。

 もう死んだかと思った場面で、颯爽と救ってくれるなんでなんて女らしい人!

 自分の身を犠牲にして、注意を逸らしてくれたと思ったら、あっさりと竜を撒いて戻ってきた。

 今回の作戦は、ハッキリ言って見え見えの罠だったから、正直なところ戻ってくると思ってなかった。

 そんな彼は私たちのことを気遣う仕草で、仕切りに大丈夫か尋ねてくれる。

 こんな男は今まで見たことがない!まるで絵物語の勇者(女)様みたい。


 てっきりあの翼人が護衛についていると思っていたが、個人で竜すらも手玉に取れる能力があるとするなら。

 この紳士的な態度を鵜呑みにして、竜姫様に会わせても良いものなのだろうか。

 ただ、彼からそういった意図を感じ取れない。

 善良さが表情、仕草からも見てとれる。

 悩ましい問題だ。

 敬愛すべき竜姫様は、このところ体調が優れないと側近のものたちから伝え聞く。

 数々の伝説を残してきた姫様も、抗えないほどに年月が過ぎた。


 竜の寿命は長い、短命種と比べると永遠に近い長さだ。

 その年月は想像もつかないが、祖母の代にはもう何百歳とも言われていた。

 この村の平和な生活は、全てが姫様の尽力によって保たれてきたのだ。

 あの粗暴な竜のような存在が、村に侵攻してこなかったのも姫様の結界のお陰。

 その結界すらも、力は弱まり続け綻びが生じるている今こそ恩返しの時。


 古くから伝わる言い伝えによると、竜は男との子を成すと若返ると聞く。

 藁にもすがる気持ちと、このチャンスを活かさない手はない。

 別に生贄に捧げるつもりではない。

 役目を立派に務めたら、護衛と共に外へと解放することも約束しよう。

 今一度、その力を借り受けたいだけなのだ。


 だが、その彼に先程は助けられたばかり。

 恩を仇で返すのは、いくら今日出会ったばかりでも気が引ける。

 決して惜しくなったとかではない!断じて!

 せめて状況を説明してからでも遅くはないだろう。



side A


 彼女たちの言い分は、とりあえず竜姫様とやらと子を成せとの事だ。

 倫理観ぶっ飛んでるなというのが、簡単な感想。

 しかし、よくよく話を聞いてみれば簡単な話ではない様子。

 ぶっちゃけて言えば、関係ない人情話ではあるが、誰かの為に行動している彼女たちを責める気にはならなかった。

 そしてこの村を治める竜姫様とやらも、随分と優しい方のようだ。


 これだけの話で上手く丸めこまれているかもしれないが、放っておく訳にもいかない。

 何故なら俺には宿題があるから。

 その竜姫様もこの世界の女性であるなら、俺が幸せにする義務はあるだろう。

 チョロいと笑いたければ笑うがいい、自分でも言い訳しながら、本当は助けてあげたいだけなのだ。

 それでもな、俺はマッサージできるだけの一般人。

 不思議な魔法が使えるわけでもないし、凄い筋力があるわけでもない。

 この俺に何ができるんだろう。


 そんなこんなで、館の前までやってきた。

 これはまた立派な、どう見ても首里城だろと言いたくなる建物。

 仕事先の先輩といった沖縄旅行を、今完全に思い出している。

 シークワーサーアイス美味かったな。

 しかし、異世界といえば海外の街並みをイメージするが、なんだか国内旅行をしている印象だ。


「こちらが竜宮館になります。」


 竜宮城じゃないのか…。

 いや、どう見ても首里城だし、竜宮城とはかけ離れているけどさ。

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