第9話

 まんまと罠に飛び込んだ形になったのか、姉妹は安心した表情で誘導してくる。

 歩くのは大通り、もう遅いので人通りはない。

 異世界ということで街頭もないし、道路はアスファルトでなく踏み固められた土。

 やけに大きい月の明かりを頼りに、2人の背中を追う。

 彼女たちからは、村に入った時と同じように背中を見てついて来るように言われている。

 なんでも特殊な結界は、慣れていないと道に迷わす効果があるらしい。


 気温は高いが、湿度は高くない。

 旅館にあった、おそらく女性用であろう浴衣に草履姿。

 どうやらその格好に、彼女たちは食指が動くようだ。

 さっきから振り返り確認するフリをして、どうも艶かしく俺の脚を覗いている。

 脚くらいいくら眺めても結構だが、道に迷わないから不安ではある。


 段々と道が狭くなって、建物の様子も長屋風に変わってきた。

 飲食店のような並びに入ってきたみたいだ。

 そこで異様な雰囲気を感じる、肌にビリビリくるプレッシャーだ。

 ちょうどあの角のあたり、2人の背中越しに見ると身長の高い女性が現れた。


 ニヤニヤと下品な笑みを浮かべているが、その笑みを上回るほどの美形。

 ほかの住人と違って、明らかに異質な存在なのが見て取れる。

 そもそも服装が違うのもあるが、肌がピンク色の鱗で覆われている。

 髪の色も同じくピンクに染まっており、あまり見たことのない配色が浮世離れしている。


「やっぱりな、ここで張ってたら来ると思ったぜ。

 顔も好みだぜ、ちょっと髪の色が変だけど。」


 好き放題言ってくるが、目が完全に捕食者のそれだ。


「悪いことは言わねえ、そいつを置いてさっさと失せな。

 ソイツはこっちで楽しませてもらうからよ。」


 うーん、チンピラって感じだな。山賊みたいな事を言ってる。

 ノリとまるっきりセリフはカツアゲだし、やっぱりこの世界の男って人権が軽んじられているな。


side リツ


 最悪だ…。


 別の村の竜神と鉢合わせるなんて。

 竜姫様の館へと続く道はこの通りしかなく、この場所で待ち伏せされたら迂回しようがない。

 だが、村の結界が破られたなんて聞いてない。

 村外の存在が侵入するには、何者かの手引きがなければ不可能だ。

 村内に間者がいるか、もしかしたら竜姫様の結界が緩むような事態に…。


 想像したくないが、確認するためにも何とか前進しなくてわ。

 だが相手は竜神、姫様ほどじゃないにしろ血族と戦って勝てるとは思えない。

 ここは、私が足止めしてレンに、


「口で言って分かんねーなら。」


 私の身体は真横に吹き飛ばされ、食事処の納戸へ叩きつけられた。

 まったく反応できなかったが、恐らくは尻尾の一撃。

 明るくない場所であっても見えそうなものなのに、とんでもない速度だ。

 スイッチするようにレンは駆け出す、悪手だ今は逃げるべきなのに。


 レンは首根っこを掴まれ宙吊りにされる。

 体格差、力量、速度までもが相手にならない。

 これほどか、痛みで目の前が朦朧とするが立ち上がらねば。

 この男を喰われてしまえば、姫様をお救いする手立てはない。


 スッと私の行手を遮る影。

 こちらの顔を覗きこみ、


「大丈夫、俺に考えがあるから。」


 コソッと耳打ちしながら、私を庇う。

 大きな背中だ。

 これが男という生き物なのか。


「ちょっとお姉さん。

 俺なら付き合いますんで、あんまり虐めないであげてよ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る