第6話
沖縄だ。
この景色見た事があるな、それが第一印象。
アドリアネに手を引かれ、少女たちの背中だけを見ていたら、気づけば村に到着していた。
辺りは俺の身長くらいの高さに積まれた石垣の通路、その中に平家の家がある。
各家には庭があって、緑が瑞々しく繁り赤っぽい花が顔を覗かせている。
ハイビスカスに似た植物は、南国感をより強調していた。
「ようこそ、竜の村へ!」
声を合わせて少女は出迎えてきた、よく案内をしているのか仕草が堂にいっている。
その声に反応して家や通りの奥から人々が集まり、いつの間にか周りを取り囲まれていた。
「リツとレンが男を捕まえてきたぞー!」
皆が口々に叫び、憶測が飛び交うなかで誰もが俺に触ろうと詰め寄るがアドリアネが許さない。
俺の2m手前くらいで、手を伸ばしてくる女性はみな硬直し動けなくする。
恐怖の蝋人形館か。
最初は街並みに懐かしさを感じていたが、これだけの女性が集まってくると異常さがわかる。
過半数がトップレス、異様な光景だった。
数人は腰巻しか付けていないという、重ね重ね異様な光景。
俺に詰め寄れないと判断した村人たちは、リツとレンの肩を掴み内緒話をしている。
その間、手持ち無沙汰の人々は物珍しげに俺の姿を眺めている。
「ほぉん、これは男の中でも相当上物。
これは竜姫さまも満足される。」
どちらかというと値踏みに近い目線だ。
「なにを勝手なことを。
綾人さんコイツら粛正しましょうか。」
アドリアネは白く透き通った肌色の額に、目に見えるほどの青筋を浮かべこっちを見る。
若干繋いでいる手に力が入っているところ、だいぶご立腹なご様子。
「まあまぁ、一宿一飯の恩って言うからね。
まだどっちも貰ってないけど…。
それよりも、アドリアネさん。竜ってこの世界ではポピュラーなものなんですか?」
「竜ですか、最近はめっきり見なくなりましたけど昔はそれなりにいましたよ。
知性ある竜は少なかった印象ですが、海難事故の大多数は竜との遭遇と言われるほどには。
悪さしていた個体は、だいたい神様が懲らしめたので。」
ヘラ様も戦ったりするんだな、イメージにない。
流石ファンタジー世界、生態系も想像がつかない。
神様が普通に存在すると認識されているのか、宗教問題もどうなっているのか。
そこら辺は元の世界でも門外漢なので、ノータッチで生活しようと心に決める。
内緒話も終わったのか、リツとレンが変わらず案内を再開した。
近寄っても拘束されないのが、この2人しかいなかったからだ。
村はそんなに小さくはなかった。
どうやら似た規模の村がもう2、3あるらしく、村同士の交流はあるが行き来はしないらしい。
上空から発見されなかったのは、各村全体を収める竜が認識阻害の結界を張っているから。
「もう少し大きければ私のセンサーに引っかかっていたかもしれませんが。
どうにも羽虫程度の魔力は、脅威と認識されませんので。」
アドリアネは口悪く言い切るが、森の影響もあって発見できなかったのを悔やんでいるようだ。
side リツ
「どうしよう、あの翼人が邪魔だよ姉ちゃん。」
レンが不安そうに袖を引く。
そう、こんな大収穫なのに隣に腕利きの護衛がセットでついてきたのだ。
竜姫様に献上するまでに、どうにかして護衛を引き剥がす必要がある。
しかし、この翼人の使用する技が理解できない。
海で狩りをする私たちは、海中でも丘にあがっても魔力感知は一級品だった。
けれど、さっき拘束されたときも全くと言っていいほど魔力の残滓も感じられなかった。
拘束されている最中も、何が原因で声も出せないのか理解に苦しんだ。
こんな技は竜にも扱えるかどうか。
「大丈夫よ、さっき村長が良い策を教えてくれた。
いい雰囲気の宿でも紹介すれば、また浜辺みたいに如何わしいことをするわ。
疲れ果てた所を、ふんじばっちゃえば良いのよ。」
浜辺での一件、最初翼人はどうみても気絶していた。
男とまぐわったことはないけれど、そんなに失神するほど気持ち良いものなのか?
とりあえず村一番の豪邸、もちろん村長の家を間借りして今晩の宿にしてもらう。
村長の家は凄い、村人も利用できる温泉が付いている。
今夜は大浴場も貸切にして、何としてでも翼人を抑え込みたい。
私とレンも、なるべく身綺麗にして給仕の真似事をしてみる。
この村の名産は、やっぱり海で採れた新鮮な幸。
この男も翼人も、生で魚を食すことにまったく忌避感をもってない。
なんなら、晩御飯中に要望してくるくらいだ。
外の人間は生で魚を食べることを野蛮だと言う、いままで出会ってきた人はそうだった。
村では貴重な酒も振る舞われた、作戦のためだから村長の提供だ。
男は口にしなかったけれど、翼人は酒を飲み尽くして赤くなっている。
これはチャンスだ…。
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