はじめまして、異世界と竜

第3話

 人気のない浜辺に降り立つ。


 ぱっと見た感じ、無人島ロケなんかで使用されてても違和感のない景色。

 ただ時代が違うこともあって浜辺には漂流ゴミの1つも落ちていない、カラフルな貝殻が時折、砂から顔を出している程度だ。

 高級なリゾートのプライベートビーチと言われたほうが、気分は良いかもしれない。


 天使は翼をしまって大きく伸びをしている、服装はいつの間にか白いドレスへと着替えられていた。

 俺の服も、現代では着られていないような地味な色合いの服にチェンジされている。


 大きな流木に腰掛けて、しばらくアドリアネが波打ち際ではしゃぐ姿を眺めていた。



sideアドリアネ


 久々の下界、青い海に白い砂浜。

 煌めく太陽、神に認められるほどの腕前をもつマッサージ師!

 これはもう揉んでもらうしかないですよね。


 一通り海を堪能して浜辺に戻ると、坂本 綾人(あやと)さんは砂浜に何か描いていた。

 絵に私の影が落ち、逆光に眩しそうにしながら見上げる顔は、どことなく中性的な印象を受けます。

 太陽にの光を跳ね返すような艶やかな黒髪に、前髪に見える赤色のメッシュが艶っぽくて。


 これは女神様が気にいるわけだ、そもそもにあの人は男を毛嫌いしている節がある。

 どこまでも女性中心な、この世界を作ったのもその癖のせいだと私は推察しています。


 砂に描かれていたのは、間取り図だろうか?

 配置されている家具らしき四角形、名称が記載されていないから具体的にはわかりかねます。

 もうこの世界での活動について、真剣に考えている様子。


 素直に、真面目だなと思う。

 確かに神からの勅命なのだから従うにしても、もうちょい第二の人生だーっと気楽に喜んでもいいものではないか。

 こういう真面目すぎるところは好印象であるが、快楽主義の私からみると生きづらそうである。


 それに比べ、私はこの世界にバカンスに来ているのである。


 日々を仕事に忙殺されること数100年、そろそろ長期休暇があっても許されるだろう。

 ただし勝手に抜け出してもヘラ様や同僚に見られている、逃げ出すにも名目というものが必要なのです。

 その点、今回の仕事は当たりも当たり。

 人間1人の監視兼ボディーガードなんて、天使の私には朝飯前。

 さらにマッサージ受け放題も付いてくるなんて、やはり私は運に愛される存在。


 綾人さんの手を引いて、立ち上がらせる。

手のひらから伝わる、このビリビリとする感覚。


 これこそが彼の能力の発端だろう、この快楽へ直結する不思議な力。

 触れられただけで足元から力が抜けて、つま先から熱いお湯につけられていくような快感が押し寄せてくる。

 それが全身へと巡り、最後には動けなくなる。

 まるで甘美な麻酔。


 この手に任せてマッサージされる、これがどのくらい危険な行為なのか理解していない私ではない。

 しかし、知的欲求を抑えることができない。

 鼻先に美味しそうな餌が揺れていたら、迷わず飛びつくのが私、快楽主義のアドリアネです。



〜side A


 最初にリクエストされた肩のマッサージをした段階で、アドリアネは白目を剥いて失神してしまった。


 確かに普段やっていた時よりも、丹念に時間をかけてやったつもりだったが。

 どうやら彼女は敏感な体質のようだ。

 

 俺の働いていた店は、夜の店の近くで営業していたこともあり経験人数が豊富な客がほとんどだった。


 つまりは、そういうことだ。

 アドリアネは気持ちよさそうに寝ている。

風邪をひくかはわからないけど、とりあえずシャツを上にかけておいた。

 上半身が裸になるけれど、まだ陽が高いので平気だ。


 波間を眺めながら中断していた店の内装を思案していると、海の遠くの方に動くものがあった。

 どうみても人の頭だ、しかも2人いる。

 2人は結構遠くにいたはずなのに、もう随分と近くに来ている。


 第一村人、いや初異世界人との邂逅になるな。

 フレンドリーに手でも振った方がいいだろうか。


 波の中から現れた2人の女の子の手には鋭利なモリが携えられている、あとなんか目が怖いのは気のせいか?

 振った手を下ろすわけにはいかない、第一印象をミスればモリが飛んでこないとも限らない。


「ほんとうに男がいるよ!あんた良く見つけたね。」


「最初はでっかい鳥だと思ったんだけどね。」


 どうやら担がれて運ばれていたのも見られていたらしい。

 アドリアネは一応周囲を確認していたらしいが、見落としたのかな?


 2人の服装は、水に濡れているが半袖半ズボンの民族衣装のような姿。

 見ず知らずの男に近づくのに、まったく躊躇いがない足取りだ。

 元いた世界では考えられないほど警戒心がない、年頃の若い子だというのに。


「やあ、こんにちは。」


 まずは挨拶してみる、向こうの声も聞き取れたし伝わるはずだと信じる。


「すごい、生きてる男に話しかけられた!」


 なんか、コミュニケーションというより珍獣発見!っていうリアクションが強めだ。

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