第2話

 世界の女性を幸せに。


 なんだか化粧品の宣伝文句みたいだな。


「えっと、具体的には?」


 両手を掲げて満足そうにしている女神に、遠慮がちに聞いてみる。


「良くぞ聞いてくれました、今回のプロジェクトには貴方の才能が不可欠ですので。

 まずは、私が作った世界について説明するわね…。」


 女神の話を要約すると、


•女性を司る神ということもあり、その世界では女性が社会を引っ張っている。


•女性メインというか、男の出生率が極端に少ない。


•どのくらいレアかというと、100人いれば男は1人いればいいほう。小さな村なんかでは1人も男がいないのが普通。


•文化レベルは中世ぐらいで、不慣れな生活になるかもしれないこと。


•言葉は通じるようにしておくし、身体強化もサービスする。


•とにかく男のが少ないので、自分の身は自分で守ること。


 何個か聞き捨てならない物騒なワードがでてきたが、要約するとこんな感じ。


 男を巡っての戦争が、冗談抜きで行われるほどの世界観。

 最初に飛ばされる国には、一応それなりに男がいるらしいが、それでも注意しておくべしと。


「それで、やってもらいたいことだけど…。

 男の転生者って初めてなのよね、あまり私の管轄に廻されてくることがなくて。

 今回は保護って名目だから、無理して連れてきたけど。

 貴方のスキルを活かして、女性の社会に活気をもたらして欲しいのよ!」


「俺のスキルって言ったって、そんな特別な知識は持ってないですよ。

 どこにでもいる、普通の男です。」


「貴方は気づいてないかもしれないけれど、普通の男ではないわよ。

 妹と2人で生活していて意識してなかったようだけども、普通女性のメイクやらファッションやら、何かにつけてアドバイスする兄妹なんていません。

 あと天然の女たらしな部分も個人的には好みだし、妹も貴方の貞操を狙ってたのに気づかず生活していたのも良し。」


 個人的な趣向は置いておいて、女神的にも気に入ってくれているらしい。

 ていうか妹にそんな意図があったなんて、まったく気が付かなかった。

 ヤケに懐いているなと思っていたが、それは両親がいないことへの揺り戻しだと考えていたし。


「それでも、それが中世の世で役に立つとは思えないんですが…。」


 尚も渋る俺の両肩を女神はがっしり掴んで、


「大丈夫。大丈夫。何かあったらサポートするし。

 それにアドバイザーもセットで付けちゃいましょう!

 アドリアネ、来なさい。」


 名前を呼ばれるとアドリアネと思わしき女性が、何もない空間から現れる。

 真っ白な服を着て、背中からは天使を彷彿とさせる2対の翼が生えている。


「私の部下の天使、アドリアネよ。この子を貴方の生涯の監視者として派遣するわ。」


「アドリアネと申します。たった100年程度の付き合いですが、よろしくお願いします。」


 たった100年というスケールが天界クオリティだな。

 別に悪意もない笑顔で言い切るところが、当たり前感を醸し出す。


「アドリアネ、あんたついこの間までアタシの作った世界に行くの嫌がってたじゃない。

 なに笑顔まで見せてるのよ。」


 アドリアネを横目に見ながら、女神は不満を漏らす。


「いいじゃないですか、やる気になってるぶんは。

 それに先ほどのマッサージを覗かしてもらってましたが、あれは随分と気持ちよさそうでした。

 私も翼が生えてからこのかた、肩こりに悩まされていまして。是非お願いしたい。」


 肩こりは翼のせいではなく、その豊満なバストのせいなのでは?

 女神の絶壁との対比がスゴイ。


「という訳で、もう準備が整ったので行ってもらいます。

拒否権はなしで、バイバーイ!」


 自己紹介も半分に足元が抜けて、真っ白な雲の中に放り出された。


 いままで味わったことのないような、落下のなかで内心悲鳴をあげる。

 すぐに真横にいるアドリアネは、笑いながら何か言っているが風の影響で聞き取れない。


 自由落下に任せているうちに、雲を抜けると広大な大陸が眼下に広がる。

 見たこともない景色に息を呑むが、実際問題そんな場合じゃない。


 アドリアネは一通り喋って満足したのか、俺の肩を抱きかかえて羽ばたいた。


「いやー、悲鳴を漏らさないとは流石ですね。

 普通こんな無茶されたらもっとパニックになるものだと。

 私、観察が趣味なものでついつい眺めてしまいました。」


 さっき喋っていたのは独り言だったようだ。

 悲鳴をあげなかったのは、まだ何もかもが呑み込めてないから現実感が湧かなかっただけで。

 今もこうして不思議な浮遊感を体験しているが、どうにも夢に思えて仕方ない。



 この世界の女性を満足させる、そのミッションだけが頭の中を巡っていた。

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