女だらけの世界に転生!男女逆転で、かく咲けり。
鮭弁DX neo
プロローグ
第1話
少し昔の話をしよう。
生まれた頃は不自由のない生活だった。
下には妹がいて、家族は父はいなかったから3人だった。側から見ても、仲睦まじい家族だったと思う。
俺が高校生の時に、母は他所に男をつくって蒸発した。まだ妹は小学生、俺は高校を辞めて働くことになった。貯金なんて初めはなく、家賃も滞納して追い出される寸前だった。
楽ではなかったが仕事はあった。とても妹には説明できないような仕事もした。
小さなアルバイトを続けていては、妹が社会に出るまでの金を貯めることはできない。
必然的に金払いのいい夜の仕事がメインなった。
所謂ホストと呼ばれる職業だ。お酒が飲める年齢になるまで、さまざまな下働きをした。
いざ成人を迎えて、分かったことは俺にはホストの才能がなかったこと。
つまり割り切って仕事に徹することができなかった、複数の女性から指名されるような八方美人こそホストに向いている性格なのだろう。
それでも俺のことを好いてくれる酔狂なお客様もいて、なんとか店を追い出されることもなく。
ただそれだけでは足りないので、昼はマッサージの店(普通の)で補った。
ホストの才能はなかったけれど、俺にはマッサージ師の才能はあったみたいだ。
夜の店でもマッサージをオススメしていたら、昼も夜も休まることはない程に忙しくなった。
生活に余裕は出てきたが、それでも清貧を心がけて妹と生きてきたつもりだ。
妹を大学にまで行かせて、蓄えを譲ると独りになり、俺の人生の仕事はひと段落を迎えた。
ここからは、オマケのような人生がスタートするはず。
「しかし、そうはならなかったのね。」
施術台の上でうつ伏せになっている女性が、涙ながらに呟いた。
台の顔を置く部分には、穴が空いており、そこから涙が床に落ちる。
「そうなんですよね、人生って上手くいかないものでした。」
どこか他人事のように自分の人生を語っていたが、いざ死んでしまうと自分の事と思えない。
なんとなく話を切り上げて、背中のマッサージから腕のマッサージに切り替える。
俺は何故か死んだ後もマッサージをしている、あまり褒められた人生ではなかったけれど、この才能だけは俺を支えてくれたと思うから。
「気持ちいいのか、悲しいのか分からなくなっちゃうわね。」
うつ伏せから仰向けへ移行した彼女は、ちょっと鼻水を垂らしていた。
死後にいきなり連れてこられた部屋で、気になるからマッサージしなさいと命令されて1時間半。
これ以上揉み続けると、翌日に揉み返しがくるんじゃないかってくらいに揉んだ。
彼女は何もない空間からティッシュを一枚取り出すと、鼻をかみ丸めて床に投げ捨てた。
施術台以外は真っ白な空間で、床と同色のティッシュもいつの間にか消えている。
ここは死後の世界、なんとも不思議な場所である。この部屋も狭いような、どこまでも続いているような前後不覚に陥りそうになる。
「お客様、終わりましたよ。」
目を閉じている彼女の肩を叩き、いつもの仕事と同じように伝える。
「お客様って、あなた私が誰だか分かってるの?」
台から上半身を乗り出し、彼女は笑いながら俺の腕をとる。
「百聞は一見にしかず、体験すれば更にね、まさに女性を幸せにするゴッドハンド。
天界から見てた時も、気持ちよさそーと思って呼び出すことは確定してたのよね。」
俺の知らないところで、謎の噂が横行しており、死後のルートは確定していたようだ。
「私の名前はヘラ、日本でも聞いたことあるんじゃない?
結婚や女性を司る女神なんだけど。」
「神様なんですね、本当にお客様は神様でしたってことですね。」
自分でもつまらないことを言ったと思ったが、彼女も微妙な表情をしている。
「それでね。」
会話を仕切り直すつもりで咳払いして、再び話し始めた。
「今回貴方は殺された訳なんだけど…。」
スムーズに話す内容じゃないな。
そう何を隠そう、俺は自宅から出たところを背後から刃物で刺され、あえなく死んでしまったのだ。
時間帯も夜ということもあり、発見が遅れたのも原因かもしれない。
冷たいアパートの廊下、そのコンクリートにうつ伏せで。
俺を刺した相手は、殺してしまったことへのショックなのか座り込んでいた。
顔もはっきりと横目で見えていた。俺のよく知る顔。
「貴方の友人である藤崎 しおりちゃんね。」
俺が高校生のときに交際していた女の子。高校を辞めてしばらく交際は続いていたが、朝夕問わずのアルバイト生活で連絡も疎遠に。
気がつけば自然消滅に近い、悪く言えば有耶無耶にして逃げ出した形での破局。
お互いに若くて、彼女の縋るような態度が当時の俺には受け止めきれなかった。
そんな彼女と、数年ぶりに再会したのだが。
それが生前に勤めていたマッサージ店のこと、彼女はすっかりOLになっていて最初は誰だかわからなかった。
「あたしだよ、藤崎。もう忘れちゃったかな?」
困り顔で見せる苦笑いが、高校を辞める俺の話を聞いている顔と一致した。
あのとき藤崎は俺と離れ離れにはならないと伝えると、高校を辞める事については深く触れてこなかった印象だった。
何回かの来店の後、連絡先を交換して。
また昔のように食事に行ったりする仲になったのだけれど、俺は別の夜の店で働いていることを言い出せずにいた。
藤崎の好意は、はっきり言って気がついていたけど。
俺にはそれを袖にする勇気も、よりを戻す余裕もなかった。
そういった優柔不断さが、積もり積もって今回の事件に繋がったのだろう。
「どうやら、しおりちゃんの精神に他の世界の神が干渉した形跡があって。
簡単に言うと、操られたってこと。
それで凶行にはしったみたいなの。」
どうやら違ったようだ、俺を刺殺することが本当の望みじゃない、そう分かっただけでも救われた気がする。
「外界の神、私たちは外神って読んでるんだけど。
どうにも、目的が貴方の魂を確保することだったみたいね。
本来は天寿を全うするはずだった運命に干渉して、魂を刈り取る手筈。」
嫌すぎる収穫方法だな。
それに俺1人の魂を回収するのには大掛かりだし。他人を巻き込む手口が気に入らない。
「なので今回は特例として、貴方の魂を私が回収したって訳。
普段は男の魂なんて取り扱ってないんだけど、しおりちゃんの魂の救済も兼ねて。
あと、外神の今後の動向も気になるから私の作った世界に転生してもらいます。」
転生、また再び人生が始まるのか。
母親が蒸発してこのかた、自分の生き方なんて考える暇もなかったな。
いざ妹が手を離れてからも、仕事が減ったくらいで何かしていたという記憶もない。
目的もない生まれ変わりか…。
「そう言うと思って、今回の転生に宿題をだします!」
まだ否定も肯定も口にしていなかったのに、女神は楽しそうに発表する。
「貴方の仕事は、世界の女性を幸せにすること!です。」
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