曇り空の星
鈴音
輝くもの
星を見ました。はるか昔に、いっぱい取られて少なくなった星。汚れた空気から私達を守ってくれる、曇ったガラスの空。そんな世界で見る星は、本の中か、プラネタリウムの中だけ。お仕事で外に出る大人の人たちも、綺麗な星空を知らないと言っていました。
でも、私は見たんです。街から離れた森の奥の、秘密の丘の上。誰も知らないその場所で、空に輝くものを見つけました。
―
その日私は、お母さんと喧嘩して、家出してしまいました。来週の誕生日の日に、お父さんと行きたいところがあったのに、お父さんは忙しいからと何度も断られ、ついに家から飛び出してしまったのです。
それで辿り着いたのが、この丘。大きい湖があって、食べるものもある、不思議な場所です。
森に入った時は、暗くて、不気味な音がして、とっても怖くて、やっぱり帰ろうかなって、何度も考えました。でも、お母さんはきっと怒ってるし、どうしても帰りたくなかったのです。
そんな時です。森の奥が、一瞬明るくなったように感じました。なんの光だろう?と、疑問に思い、その光を追いかけました。
早くしないとあの光が消えちゃうかも。急がないとって、一生懸命走りました。
何回も転んで、擦りむいたり、枝が顔に当たって、とっても痛かったけど、光が消える前にこの丘に辿り着きました。
丘の上から見下ろすと、その光は、もう消えかかっていました。でも、私にはわかったのです。あれが星で、大人も見ることの出来ない、古い古い光なのでした。
それから、時間をかけてゆっくり帰っては、色々なものを持ってきました。お菓子とか、お気に入りのものとか。
街からここまでは一直線で、迷わず帰ることが出来ました。
そして今、家出してもう4日も経ちました。お母さんはとっても心配していると思います。
でも、何度も変な注射をされたり、必要な事だからと大人の人たちに体を触られるよりも、ここにいた方が良かったのです。
今日は、お洋服の洗濯をして、お風呂に入りました。
湖はとっても綺麗で、冷たくて、不思議な味がしました。
それから、湖の周りの木の実を食べました。
湖の周りにある木は、プラスチックや石で出来ていない、本物の木でした。
その木には赤くて綺麗な実がぶら下がっていて、かじるといつもデザートに食べるフルーツペーストの味がしました。
フルーツがなにかを、今までは知らなかったけれど、私は初めて本物の果物を見て、嬉しくなりました。仲良しの友達も、近所の大人も知らないことを知ることが出来た。それだけで、とっても嬉しかったのです。
でも、その後私はとっても疲れて、眠くなって、ぐっすり寝てしまい、気づけば夜になっていました。
夜になって、空を見上げると、いつもと違う夜が見えました。真っ黒で、何も無い空。でも、怖くはなくて、綺麗な空だと思いました。
ぼーっと、空を見つめて続けていた時、遠くで大きな音が鳴りました。それから、強い光がいくつも見えました。もしかしたら、星が空から降ってきたのかも!私は、すぐに立ち上がって、遠くの空を見つめました。
そこには、数十個の星が見えました。ぽつぽつと輝くものがあって、たまに新しい星が見えました。星が生まれる度に大きな音が鳴ったけれど、きっと空から落ちてくるからだろうと思いました。
それから、また眠くなったので、お気に入りの毛布を抱いて眠りました。
―
…朝、目が覚めた時、私は驚きました。毛布が真っ赤になっていたのです。体も、とっても重くて、もしかしたら、あの注射を打たなくなったせい?と、考えました。
それから、湖で水を飲もうとしたときに、口の周りが血で真っ赤なことに気づきました。きっと、家出した悪い子だから、病気になっちゃったんだ。そう思って、お家に帰ろうと思ったその時に。
――――――――!!!!!
空が割れて、世界が真っ白になりました。それから、凄い音が鳴って、強い風に押し倒されました。
ごろごろと転がって、湖に落ちて。ようやく湖から上がると、森の木は溶けたり、折れたりしていました。
街は、真っ赤に染まっていました。
私は咄嗟に、お母さんが危ない!と思って、森の中に飛び込みました。
でも、足がもつれて、すごく体がだるくて、倒れてしまいました。まぶたが急に重くなって、ふわふわとして…
―
…気づけば、狭くて暗い部屋に1人転がされていました。ここからどうなるんだろう。私は怖くなりました。お母さんも、お父さんも、今どこにいるんだろうと、とっても心配しました。
もう、何時間経ったかもわからない。そんなときに、1人の男の人がやってきました。聞いた事のない言葉を喋るこの人は、手に持った注射を私に打ってきました。
怖くて、痛くて、私は暴れました。でも、森の時と同じく、ふわふわとして、体が重くて、眠くな―
―
(被検体A:不適合。要処分)
曇り空の星 鈴音 @mesolem
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