ひとときの朝をあげる

ユキ

第1話 闇の世界

「店長...開店の時間ですよ」

 1人の青年が開店の準備、掃除をしながら彼を起こす。ブラインドを開けるとそこに移るのは真っ暗な中に点々と輝く星々と欠けた月があった。

「今日はいい天気ですね、月が見えますよ」

「んー?そうか...そりゃ良かったな...」

「はぁ、なんであなたはいつもそんな嫌そうに言うんですか!月と星があれば十分いい天気ですよ」

「だってよ、こんな暗い空見たって気持ちなんて全然晴れねえよ、良いか?晴れって言うのはだな...!」

「また、始まった...どうせ、空が水色で黄色の太陽とか言う星が差し込んで風が吹いて...そういうのが"本当の晴れ"だって言うんでしょ...、そんなこと言われても僕には分かりませんよ、生まれてこの方1度も見たことがないんですから、その"朝"って言う光景?現象?を」

「お前は、本当に人生損してるぞ!エイト」

「はいはい、そんなことは良いから早く準備して下さい!今日のお客さん来ちゃいますよ!」

「へーへー...」

 そうなのだ、お察しの通り。この2人が住む世界は、ずっと暗いまま。光などは街灯や電気の光、後は月や星以外に何もない。闇の世界。だがこの世界は、昔は違った。夜明けが来る普通の世界だったのだ。なぜ、こんな事になってしまったかというと発端は20年も前に遡る。太陽が神隠しにあったのだ。あまりにも急で一瞬の出来事だった。日食 とは別の現象で、本当に一瞬で太陽は天体からいなくなってしまった。現在でも太陽を探す政策が行われているが、未だに見つかっていない。人間は、この夜の世界で生きていかなければならなくなってしまったのだ。

「エイト、今日の客は何人だ?」

「今日は、2人の予定でしたが急用が入ったとかで1人キャンセルになりました。だがら、1人ですね」

「1人だけか、もう1人のやつにはキャンセル料請求しなきゃな」

「何言ってるですか、ここに来る数少ないお客さんでしょ?そんなこと言わない!」

「チッ」

 そう言いながら、準備を進めるすらっとした高身長の青年。いかにも異性からモテそうな彼は、エイト。名付け親は店長の朝宮ノル。育て親もノルという、いわゆる拾い子だ。なんでも、ちょうど店の前に置かれていたらしい。エイトという名前の由来は、テキトーらしいが嫌いではないらしい。

「よーし、今日もやりますか...」

 そして当の本人の朝宮あさみやノルは、基本ダラダラしているが元研究者で、太陽が神隠しにあった瞬間を見ていた人間だ。それがきっかけで、研究職を辞めこの店を開いた。店の名前は、『魅惑屋みわくや朝宮あさみや

 決して怪しい店ではないので安心して欲しい。ここは、今となっては滅多にお目にかかれない"朝"を魅せてくれる店だ。お金は...まぁ、それなりにはするが...。

 それは、ともかくどうやって見せるのか。それは、これから少しずつ語っていこう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ひとときの朝をあげる ユキ @YUKI0205

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ